我が校の王子様に100円貸した、とに言ったら

「アンタ、どんな手使ったの!?教えなさいッ」

と言われた(私は何もしてない…)

経緯は話したけれど、「あの性格は、王子様じゃないよね」とは、
口が裂けても言えなかった






Milky is not taste of a mom.






予期せぬ出来事から一夜明けて、藤真さんがお金を返しにくる日になった

私はに「藤真さん、いつ返しにくるのかな?」と言われるまで、昨日の出来事をすっかり忘れていた
は別に好きとかいうわけではなく、単に面白がっているようだ(いや、彼女はミーハーなんだきっと)


「来るのかなー…どうだろ」
「来るって言ったんでしょ?」
「言ってたけど…100円くらいもういいのに」

とボヤくと、は呆れた顔で「普通の女の子なら泣いて喜ぶところだよ」と言った
別の意味で、泣きたいよ

は藤真さんみたいな人好きじゃないの?」

カッコイイし良いじゃん、とひょうひょうと言う彼女は何者だろうか(周りを敵にまわすよアンタ…)
好きって言葉をどういう意味でとればいいのかわからないけど、少し考えて答える

「藤真さんがどうってわけじゃなくて、ああいう別世界な人と関わることないから緊張するんだよね」
「あー」

そっか、と頷く
わかってくれてちょっと嬉しいな、と思った

それから半日、藤真さんが現れることは無かった



昼休みになって、今日は運よくジャンケンに勝った
にお金を渡して、ウーロン茶を頼む

「あたしが行ってる間に藤真さん来るかもね」

そしたら写メ撮っといてよ、と言い残して彼女は教室を去っていった
…本人に向かってそんな恐れ多いこと出来るわけないでしょう…


席に座って、ぼーっと外を眺めながら右手はケータイを開いたり閉じたり動かす
そういえば昨日買った雑誌をまだ読んでいなかったことを思い出し、
ケータイを置いて鞄から少し大きめな冊子を取り出した

大好きな映画の特集のページを開いて、肘をついて読み始めたときだった


ちゃんッ、」


声をかけられて、顔を起こすと
クラスメートの女の子が興奮気味に話しかけてきた

「ねぇ、廊下にちゃんに用があるって…」
「…!」

その言葉にハッとする
急いで席を立って、廊下を見るとそこには思った通りの人がこっちを見て立っていた

知らせてくれた子に有難うと言って、急いで廊下に出た


「藤真…先輩、」
「よッ」

にこっと笑う藤真さん
一瞬だけ横目で教室を見ると、何人もの女子が騒ぎながらこっちを見ていた
これは手短に済まさなければ…そう思って早く返してもらおうと顔を上げると、
目の前の人は顔を顰めている


「お前、トモダチいねーの?」


まさか昼飯一人で食ってるとか言わないよな、と尋ねてきた
私は一瞬「は?」とか言いそうになった

「いえ、…一緒に食べてる子が今飲み物買いに行ってて…」

とありのままに答えると「ふーん」と、聞いたわりには案外適当な反応をし
首を動かして教室内を覗く藤真さん

一体何なんだろ…


「“”?」
「…?」
「下の名前」
「あ、ハイ」

です、と言うと藤真さんの視線が私に向いた
一瞬ドキッとして、昨日のような居心地の悪さと緊張が私を襲う
真っ直ぐと見つめ返すのは無理だと思い、明後日の方向に目線を泳がせた

「甘いもの好きか?」
「…甘い、ものですか…?」

何度も続く不可解な質問に、私は首を傾げた

「好き、ですけど…」

それが何か?と続けようとするが、相手の「ヨシ」という声に流されてしまった

何がヨシ、なんだろう…
何しに来たんだろう、この人は…そんな疑問が頭の中を駆け巡る


すると急に藤真さんは、制服のポケットに突っ込んでいた両手をスッと出した
私は、あぁやっと100円が返ってくるんだと思った

けれど、銀色の硬貨が差し出される素振りは無く、
藤真さんの大きな両手が握り拳のまま私の前に突き出された

「右か左か、ドッチ」



え…?



にこにこと笑うその笑顔は、この状況を楽しんでいるようで
私はさらに混乱する

「え、選ぶんですか?私が」

と尋ねると、「そーだよ。早くしねーと両方やんねぇぞ」と急かされる
もうクラスメートの視線なんかこの人の不可解な行動のせいで、吹っ飛んでいた

「じゃ、じゃぁ…コッチ」

私から見て右、つまり藤真さんの左拳を指して答える

「コッチでいいんだな?」
「…はぁ…(いいって言うか、100円は…)」

にやりと笑った藤真さんは
選んだ方の手をグッと腕を伸ばして差し出し、残された方の手はポケットにしまった
私はその拳の下に、ゆっくりと掌を差し出た

パッと拳が開かれ、ポトッと何かが私の掌に乗る

「…」

白地に、ピンクと水色の花模様の
よく見慣れたカタチ


え、


「ミルキー…?」


紛れも無い、あの甘いお菓子が1個
手に乗っていた

「あー残念、ハズレだな」

惜しかったな、と何故か爽やかに笑う上級生
何でミルキーなのか、100円はどうしたのか、何て言えばいいのかすら解らない

「え、あのコレは…」
「残念賞にやるよ」

いや、やるよって言われても…
自分より遥かに高い位置にあるニコニコ顔を見上げる


本当に、何がしたいのですか……?


呆然として見上げていると、藤真さんはくるっと方向転換して
階段の方へと去っていく

「じゃーな」

驚いた私は素っ頓狂な声をあげた

「え、100円返しにきてくれなんじゃないんですか?!」


何しに来たのマジで!


ミルキーを片手に持ったまま、階段を下りていく藤真さんに向かって言うと
後ろを振り返ることもなく、「また明日ー」と言い放って、帰ってしまった

「何なの…」


それから、自販機から戻ってきたが現れるまで
私はそこに突っ立て手の中のミルキーをただ呆然と見つめていた

「あ、ー藤真さん来たの?」

ハイ、アンタのウーロン茶と言って紙パックを差し出す彼女の顔を
ゆっくりと顔をあげて見つめ、小さな疑問と尋ねる


「ミルキーって1個いくらかな」
「は?1個って一粒?」


一袋で100円くらいなんだから10円もしないでしょ、と呆れるように言われた

「何言ってんの?つか100円、返して貰ったわけ?」
「いや…」

ハズレたッポイ、と言うとは眉を顰めた


100円は返ってこない

もらったのはその1/10にも満たないミルキー1個


もう何も考えたくなくなった私はゆっくりとした足取りで教室に戻っていった

その後、クラスの女子に質問攻めにされ(全部見てたじゃん…)
何があったの、とに問いただされ全部話し終えた頃には、彼女の爆笑の嵐だった