翔陽の王子様こと藤真健司に100円を貸した1年の

彼は2つ下の後輩に「明日返す」と言った
そして次の日、彼はその後輩の教室を訪ねる

しかし少女が受け取った物は硬貨ではなかった

小さな甘い飴、1個

それだけ






She has a little doubt.






藤真先輩との奇妙な出会いから、ミルキーを貰った日から2週間以上経った

あれからほぼ毎日、先輩は教室にやってくる
その度に先輩は笑顔で「右か左か」と言って拳を突き出す

最初の何日かはとにかく困った
何より周りの視線が気になってしかたなかったけど…

「右ッ」
「お、即答か」
「わ、ミルキーですか」

2週間も経つと、クラスメートの視線も興味から随分と温かなものに変化して
私も、すっかり慣れてしまった


「お帰りー今日は何だった?」
「ん、ミルキー」
「ヨカッタね」


最初は見るたびに爆笑していたも、今ではもう当たり前のように思っているらしい

小さな包みを開いて、小さな白い塊を摘んでぱくっと口に入れる
ミルクの甘さが口の中に広がると、不思議と幸せな気分になる

「しっかり餌付けされちゃってー」
「餌付け言わないでよ」
「餌付けじゃん。食べて喜んでるし」

窓側の指定席で昼食をとりながら、私の顔を見てが笑った
まぁ、喜んでるけどさ…(だってお菓子好きだし)



「昼休みに来なかった日は、大抵はその日の部活中にくれるんでしょ?」
「水道んところで会ったらね」
「会わなかったら次の日2個くれるんでしょ?」
「ミルキーとは限らないけど」
「完璧な餌付けじゃん」

お箸を動かす手を止めて、は肩を揺らして笑い出す
…餌付けって、私は動物ですか

「ミルキー、かぁ」

貰ったアメの、包み紙を開きペコちゃんの顔の数を数えながら私は呟いた

藤真先輩は、翔陽の王子様的な存在
勿論女子には絶大な人気を誇る

でも、それだけじゃないとわかった

男子にも慕われている
バスケ部の男子にもアイサツをされれば爽やかに返す
寧ろ、女の子に話しかけられているときより愛想がいいかもしれない
そして、とても綺麗な顔立ちだけど中身は普通に明るくて気さくな感じ

外観ではわからない、良いところを沢山持った人だと思う



だからこそ、そんな素敵な完璧な先輩だからこそ
私には疑問がある

「ねぇ」
「ん?」

お箸でミートボールを口に放り込み、は顔をあげた


「なんでさ、先輩は忙しいのにお菓子持ってきてくれるんだろう」
「……」


“何で私のために”


ずっと頭の隅にある疑問
考えても考えても、理由がわからない

「あ〜…」
「忙しいのにさ、言い方悪いけど…アメ1個だよ?」

オカシくない?と尋ねると
は頬杖を付いて「ん〜…」と考えだした
私もお弁当を見つめながら、彼女の答えを待つ


「…これは勝手な予想だけど、」
「うん?」

少し躊躇いがちに、というか周囲を気にしてか
姿勢を低くし、彼女は小声で囁く


「……先輩、のこと好きとか」

「…は?」


ナンだって?
そりゃどー考えても、ナシでしょう。

私は笑いながら「それはナイって」と言うと、は不満そうな顔で「えー…」と言う
それはない。そんなことは、有り得ない。

「だってさー、好きでもない子にわざわざ会いに来る?」

階段上ってまで、毎日だよ?と彼女は眉をひそめた
そういう気がなければ、普通はこんなことしないだろうという意見らしい

「そんなウマイ話あるわけないって」
「でも絶対にもそうじゃないなんて言い切れないでしょ?」

そうだけれど、
それでも確実に絶対そうじゃない

確かに会いに来てくれていたけど、
先輩の態度は好きな子に対してという感じではない
恋愛経験が少ない私でも一応女だし、そのくらい感知することは出来る

あれは、もっと身内に対するような雰囲気だったと思う

仲のいい先輩後輩、それ以上何でもない

少し不満そうな様子だったけれど、最終的にが折れた
年頃というものは、まだまだだな…なんて思って私は苦笑を零す

けれど結局のところ
何もわからないまま終わってしまった

所詮その意図を理解する者はご本人、
藤真先輩だけなんだ

私の疑問は、なかなか解決しないなぁ