私と君は、似た者同士
俺と君は、似た者同士


だからこそ、だからこそ。





窓から差し込む日差しは少し強くて、夏の到来を感じさせる。流れこむ風は気持ちがよくて、空は青々、雲は真白。こんなに素晴らしい快晴に、零れたため息は、ふたつ。

「…ちょっと、藤真クン」
「ンだよ…サン」

私の隣で、同時にため息をついた男を、軽く横目で睨む。“藤真クン”だなんて気色ワルイ呼び方をしたら、向こうも不機嫌そうな顔つきでこちらを見て、気色ワルイ呼び方をしてきた。

「ため息とか、人が凹んでるのに追い打ちかけるようなことやめてくれない?藤真がため息つくと私の中にある残り僅かな幸せまで逃げてく気がする」
「お前こそ、俺の隣で陰気な空気漂わせんな。俺までキノコ生えそうだろ」

「・・・」
「・・・」

無言のにらみ合い、そして。

「「はぁぁ…」」

再び重なる、重いそれ。

「で、藤真は何凹んでるの?」

背中を丸めて頬杖をつきながら私は藤真の顔立ちだけはイイそれを見た。全く…翔陽の王子がそんな眉間に皺寄せてコワイ顔してたらファンが泣くだろうに。
椅子に浅く座っていた藤真がずるずると落ちていき、一層だらしない姿勢になる。そして唇を尖らせて、低く呟いた。

「ふられた」
「……は?」
「ふられた!彼女に!昨日!バイバイだと!!」

かなり大きな声で叫ばれたけれど、幸い今は休み時間。高校生の騒がしいおしゃべりじゃれ合いタイム中にちょっと声を張り上げたところで、問題はない。
私は「うわぁ…」と言って、そして思ったことをそのまま口にした。

「もしかしてまた“アレ”…?」

そう尋ねると、藤真は苦い顔をして、そしてコックリと頷いた。
ああ、またなのか。彼はまた、“アレ”を言われてしまったのか。

“アレ”とは、藤真のような部活に燃える男に付ものな、女の問いかけ。

“私と部活(藤真の場合、バスケか)、どっちが大切なの!?”、という、アレだ。

私は何だか無償に藤真が哀れに思えた。頑張っているのに、妙な選択迫られて、どうしようもない問いかけに答えてやったのに捨てられた隣人。
嗚呼、ホント藤真と私って、同じだわ。

「藤真…私、鏡で自分を見てる気分だよ」
「…まさか、も“アレ”かよ」

一瞬、僅かに見開いたかと思うと、すぐに同情のまなざしを向けてくる藤真。私は「ハハハ…」と空笑いをした。

「もしかして、また“俺って、お前の何?”とかアホなこと言われたのか?」
「うん。昨日、しかも家の前で待ち伏せされて」

そうなのだ。昨日、私は彼氏に振られた。夜帰宅して、家の前に立っていた恋人に、藤真のいう“アホなこと”を言われ、そして別れようといわれた。
もう何度目になるか分からない、何度も何度も、別れ際には必ず言われたそのセリフ。今更悲しみに暮れて枕を濡らすなんてことは無いが、それでもやっぱり、虚しいものだ。
私と藤真は見つめあった。そして、またしてもため息が重なった。

「あー…もーホント、藤真だけは一生私の見方だと思う」
「俺も。お前だけは絶対俺の理解者だ」

ざぁぁ、と吹き込んできた風が気持ちよかった。だんだんと暑くなっていく日々の中の、癒しだと思う。
そしてその風が静かに止んだころ、私たちの中で何かが切れた。


「“何”って何!?意味がわかんないんだけど!自分のことぐらい自分で考えて欲しいわよ!!」

「どっちが大事だぁ!?バスケに決まってんだろうが!バスケは俺の命に等しいんだよ!!」

「大体、忙しい彼女を労わろうとか、そういう優しさを持ち合わせていないわけ!?だったらそんな男コッチから願いさげだっつーの!」

「恋人の時間が何だってんだよ!アイツに時間費やしたって俺のシュート率が上がるわけじゃねえし!」

「コッチは汗水流して働いてるのに、ぷらぷらしてるアイツに構ってる暇なんか無いわよ!てか待ち伏せとかマジでコワイから勘弁!」

「彼女だったら部活中に俺にタオル差し出すとかドリンク差し出すとか応援するとかしてもいいんじゃねえの!?泣けばいいと思いやがって!」


「藤真もそう思うでしょ!?」
もそう思うよな!?」

散々大声で不満をまき散らし、最後は息を切らして互いに同意を求める。恐らく目の前の男と同じように、私の目は真剣そのものに違いない。

「ああ、お前の言うとおりだ」
「うん、私もそう思うよ」

グッ!と、私たちは固く拳を握り、深くうなずいあ。
ああ、やっぱり、この男はよく分っている、そう思い、私は苦笑しながら藤真の話に踏み込んだ。

「バスケ部、遅くまで頑張ってるもんね。ここんとこずっと、休日もナシなんでしょう?」
「まぁな。も、生徒総会近いから忙しいだろ。それに、もうすぐ中間だしな」

藤真も、叫んだらスッキリしたのか、形のいい眉を下げながら、苦笑を浮かべている。

藤真は、とにかくバスケが忙しい。

当たり前だ、彼は部の監督兼エースなのだ。何より翔陽はバスケで全国でも有名な学校、その3年生が部活に燃えない方がおかしいというものだ。早弁をして昼休みまでも練習している彼らには、本当に拍手を送りたいと思う。毎日猛特訓をしていることは、わざわざ体育館に行かなくても、隣にいるだけで十分分かる。仮に休日がもらえたとしても、普段の疲労から、ゆっくり体を休めたいであろうことも理解できる。

そして私も、藤真の言ったとおり忙しい。

生徒会の副会長なんざやっている私は、今まさに生徒総会の準備に追われている。毎日朝も放課後も集まり、下手をすれば休日登校のときもある。さらに3年になって、受験のことまで考えなければいけなくなった。すでに2年の内から推薦を狙っていた私には、定期テストはかなり重要。授業も大事だし、予備校に通っていない私は、生徒会の仕事の後に勉強をしてから帰宅するのだ。

それなのに、バスケを頑張っている藤真や、生徒会と勉強に必死な私をどうしようもないくだらない言葉で捨てるとは。
全く、そんな輩に出会う度に、私も藤真も己の見る目の無さを嘆くばかりだ。

「藤真には、部活の忙しさをきちんと理解して、かつ心から応援してくれる子が必要だよね」

そう笑いかけると、藤真はへにゃりと口を曲げて「必要なのに、見つかんねー」と言った。

「最初はワカッテマスみたいな顔してるけど、結局たどり着くところは同じなんだよなぁ」
「そうだねぇ。そういうの承知で付き合ってる筈なのに、どうしてかそれを原因にされるんだよね」

人間は、支えを欲しがる生き物だ。努力するとき、出来ることならそれを応援して支えてくれる人に傍に居てほしいもの。理解者であり、支えてくれる人と一緒にいたい。そう願って、何故か裏切られる私たち。

の男も、家の前で待ち伏せなんかしねーで帰るとき送ってってくれりゃいいのにな」
「あはは、まぁ待たせるの悪いから帰っていいって言っちゃうのは私なんだけどね。でも、うん、送ってくれたら一緒にいる時間も長くなったかも」

まぁ、今更そんなこと言ったところで、もう送ってくれるような相手はいないんだけどね、と私が笑いながらそう言うと、藤真は急に腕組をして考え事を始めた。私はどうしたのだろう、と首を傾げる。そして、藤真、と呼びかけようとした途端、勢いよく藤真が顔をあげた。

!」
「え、な、何?」
「今日から俺が送ってやるよ」
「…はぁぁ!?」

驚きの余り、素っ頓狂な声をあげてしまう。
いきなり何を言い出すんだ、藤真は…!

「何、急に…どうしちゃったの藤真」
「や、お前が帰る時間まで残ってる奴なんて結構少ないだろ?いくら日が伸びてきたって言っても、も一応女子だから一人じゃ危ねーし」
「う、うーん…別に危ない道は通らないけど」

人通りも車の通りも、多くはないが決して少なくはナイよ?街灯だってしっかりあるし…と、言ってみるものの、己の考えを名案を言わんばかりの藤真は全く聞く耳を持たない。

「俺なら部活だし。俺が終わるまでは勉強してりゃいいじゃん。で、俺が練習終わったらお前送ってく」
「え、いやぁ…いいよ、藤真疲れてるのに…悪いし」
「どーせ帰り道大して変わらねーじゃん。俺の通学路、ん家のすぐ近くの道通んだぜ?完璧だろ」
「か、完璧って…」

確かに理屈は分からなくもないが、だからといってハイじゃヨロシクと頼めるものでもないわけで。そんなことをしてもらうのは申し訳ないと思う私だが、藤真の親切心にハッキリと断ることが出来ず…

「ハイ決定。文句言っても無駄だからな。じゃ帰り待ってろよ。終わったらメールする」

結局藤真の流れに、流されてしまうのであった。



こそが、
理解者
俺はお前のこと、分かってるからな。私は君のこと、分かってるよ。




続きます。たぶん。