その笑顔に惹かれている自分がいるかもしれない



¥0


「ありがとうございましたぁ!」

店員の声が重なりお客さんが数人外に出る。ここはとあるファーストフード店。そして、私の仕事場。とはいっても、所詮アルバイトなのだけれど。

「ふぅ・・・」
、お疲れ」
「あ、お疲れ様です」

レジの前に立っていると先輩が声をかけてくれた。その先輩はアルバイトの私とは違う制服、正社員の方で、ニッコリと微笑んで私に激励をくれる。

「だいぶ慣れたみたいね」
「ハイ!」
「よし!じゃぁその元気でもっともっと頑張ってちょうだい!」
「ハイ!頑張ります!!」
「うん、いい笑顔ネ!じゃあ・・・あ、ポテトが少なくなってるからドロップお願いしていいかしら」
「わかりました!」

返事をし、すぐに網に冷凍されたポテトを入れ揚げる。バイトをして、一番多かった仕事はたぶんこのドロップだ。最初は高温の油が怖かったし、タイマーを押すのを忘れたこともあった。

ここで働き始めたのは2ヶ月前。面接の時から緊張していた私は、最初の1週間くらいはとんでもなくカチカチで、でも先輩たちがとても親切にしてくれた。たまに何度か注意もされたけど、しっかり指導してくれて、今では楽しくて仕方がない。

こんな素敵な仕事にめぐり会えるなんてラッキーだ!

ピピーッ!とタイマーが鳴り、揚げたてポテトが出来上がった。最近ははサイズによる量と何となく感覚で覚えてきた気がする。レジだってだいぶ手際よくできるようになった。

そうこうしている内にまたお客さんが入ってきた。いらっしゃいませーッ、という店員たちの声が響く。
私は慌ててレジに向かった。

「いらっしゃいませ!ご注文のお品はお決まりでしょうか?」

にっこり笑ってすぐに手を動かしレジに注文を打ち込む準備をする。そしてお客さんの顔をみた。
その瞬間、私は危うく「ゲッ!」と、接客にあるまじき声を出しそうになり、寸のところでそれを飲み込んだ。

「こんにちはッ!」

相手の笑顔に、思わず私は凍りついた。
・・・・また来たよこのお客さん・・・

先輩方が私の様子に気づき、いつものようにくすくすと笑っているのが背後に感じる。こんなことが続いてかれこれもう3週間が経つ。

「ご、ご注文をどうぞー・・・」

少し固い顔で、それでも必死に笑顔を浮かべて接客をする。そんな必死な私とは対照的に余裕そうな表情で笑っている置お客サマ。黒髪で、ちょっとだけ細身で、結構カッコイイと思う・・・思うんだけど・・・

「えーっと、・・・チーズバーガー2つと海老カツ1つで、ポテトをLサイズ2つとー・・・コーラ2つにカフェオレ1つ!」

「はい、チーズバーガお2つと海老カツバーガーお1つ、大きいサイズのポテトがお2つ、コーラがお2つ、カフェオレがお1つ…」

固い声で復唱しながらレジのキーを押していく。そして「以上でよろしいでしょうか」と尋ねると、そのお客さんはニィっと笑みを深くした。そして大きな声でお決まりのアレをいう。

「あと、、君のスマイル出来るだけたっくさん!!」


出た・・・スマイル注文。スマイルは商品じゃありません。サービス品です…!
ていうかたくさんも上げられないので1つで我慢してください。なんて言えるはずもなく、私は心の中で大きなため息をつく。

・・・笑ってないで助けてくださいよ、と背後の先輩にテレパシーを送るが、無意味だった。

苛立ちよりも恥ずかしくて泣きたい私だが、これはお金を貰っているお仕事だから、最後まで必死に対応する。頑張れ、負けるな私!

「て、店内でお召し上がりでしょうか・・・?」

本当はこのセリフが一番言いたくない。
この人は毎度毎度同じメニューで、そしてテイクアウトかと問うと決まって___

「ここで!あ、君のスマイルは出来れば持ち帰りで!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

と有り得ないくらいクッサイ台詞を普通に吐く。
・・・持って帰れるわけがないでしょう?という言葉を飲み込んで必死に笑顔を作り、どうにかスルーする。この会話を全部聞いている先輩たちはささっと手際よく品を用意しながら、笑いをこらえている。
・・・誰ですか今思いっきりブハッって噴出したのは。

品物が間違っていないかを確認して会計を進める。この人の注文の金額は決まって¥1220
覚えてしまっている自分が非常に悲しい。

いつものように千円札を2枚だし、私はそれを受け取ってレジを打つ。正社員の先輩が品物をのせたトレイを笑いを堪えながらお客さんに渡した。

「2000円のおあずかりで、780円の、おつりです」

おつりを受け取ると彼はにっこり笑って言う。その笑顔は、ちょっと子供っぽくって、悪戯っこのようだ。

「じゃ、仕事終わるまでこれ食べて待ってるから!」
「・・・・は?」

いつもとは違う言葉に思わず素で返事をしてしまっった。驚いて目を丸くしている私にもう一度彼は微笑みかけて、待たせていた友人2人のもとへと向かっていく。
大きな奴がテーブルをバンバン叩きながら涙目になって笑っている。もう一人のと小さな奴は必死に堪えているようだけど、口元がぴくぴくと痙攣しているし、肩が揺れているからバレバレだ。

・・・なんで、皆に笑われてるんだろう
てか待ってるって、どういうこと?
私が、シフトあがるのを・・・ってこと?

理解できなくて混乱していると先輩が私の肩をポンッと叩いてニンマリと笑いながら話しかけてきた。

「面白くっていい男じゃない!ッ!このチャンスを逃すなんて勿体無いわよ?」
「え…イヤ…」

そんな大きな声で言わないでください。皆手が止まるほど爆笑してるじゃないですか。
ああ、顔が熱いのは仕事に気合が入りすぎてるからだと、言いたい。

仕事が終わった私は裏から逃げることも出来ず、まんまと彼に捕まったのでした。



SMILEプリーズ!