おふくろか死んでから、俺は姉貴のことばかり見ていた気がする

中学にあがってから、毎日と言っても過言では無いほどとにかく喧嘩をした。
相手が俺に対して突っかかってくる、その理由はこの『髪』なわけで、地毛だなんて言葉は言ったところで無力なものだった。
喧嘩は、売られたら自然と買っていた。もともと俺は短気な方だから、すぐに挑発に乗ってしまう。
チャドと会うまでは、一対複数。会ってからは二対複数。同数で喧嘩をした記憶は今のところ俺には無い。
口で聞かないのだから、手が出ても仕方が無いというが、実際俺もチャドも口で解決出来るのならそれに越したことはないと思っていた。
けど、相手にそれが通用するはずもなく、やっぱり拳で話合う結果になる。
俺たちは100%素手、相手は時には鉄パイプやらなんやら面倒なものを持っていることも少なくなかった。
結果は、ほとんどと言えるほどの俺たちは負け無し。
それでも怪我をすることはしょっちゅうで、その度に家に帰るのを何度躊躇ったことか。

柚子や夏梨に心配をかけるのが嫌な俺は、大抵夜遅くに帰宅した。
もともと放任主義の親父は「まぁた派手にやったな!」と呆れたように、けれど誇らしげに笑うだけ。
「喧嘩だって、大事なものを護ったりするときは必要なもんだ」、親父はいつもそう言っていた。
だから、親父には正直に喧嘩のことを伝えていた。

家に帰って、一番罪悪感を感じるのは姉貴と顔を合わせたときだ。
俺よりも4つ年上の姉貴は、いつも傷や泥だらけの俺を見ては目を大きく見開いていた。
おふくろがいない分、母親代わりのような存在だった姉貴に派手に喧嘩した直後の姿を見られるのは胸が痛んだ。
「また、喧嘩しちゃったの?」
驚いて、でもすぐに柔らかく微笑む。いつもそうやって言って、そして俺を呼び寄せる。
「怪我だらけだねぇ、あーあ」
そっと、殴られた跡に触れる姉貴の手はいつも冷たくて心地よかった。
「消毒しよっか」
「…あぁ」
喧嘩をして、姉貴に見つからないということはほとんどない。絶対、バレる。
ダイニングの椅子に座って、姉貴と向き合って、手当てをされるその間、いつか姉貴に非難されるのではないかと内心びくびくしていた。
けれど、そんなことは過去に一度も無かった。
いつも、微笑んだまま優しく手当てをしてくれるのだ。だから余計に、胸が痛む。
「…姉貴」
「ん?」
「…悪ぃ」
決まって、俺は姉貴に対してそう言った。それは、感謝と、謝罪。
「何であたしに謝るのよ」
くすくすと笑いながら器用に包帯を巻いたり、絆創膏を貼ってくれる。
「…いっつも、喧嘩して、怪我して、…手当てしてもらって…」
「だったら、悪いじゃなくて、ありがとうって言いなさい」
「…ありがと…」
「ハイハイ」
おふくろがいたら…きっと姉貴のように言っただろう、
いつもそんなことをぼんやりと考えながら俺の手とは全く違う、綺麗な姉貴の手を見つめた。
「喧嘩だなんて、一護も…男の子なんだねぇ」
「……」
「喧嘩していいって言うわけじゃないけど、お父さんが言うみたいに、どうしても避けられないときだってあるんだよね」
「あぁ…」
真っ直ぐ見つめられて、微笑まれて、俺は自分が情けなくて仕方が無かった。
そうは言っても親父とは違う、母親のような姉貴は決して俺が喧嘩をすることを快く思ってはいないはずだ。
「…姉貴は、喧嘩するなって、言わないのか…?」
俺は、いつかそう言われるのではなかと思っていた。
「言わないよ。だって一護、するなって言っても、喧嘩しちゃうでしょ?」
「…多分、な」
「じゃあ言わない」
「…そっか」
「うん。ハイ、終わり!」
手当てが終わって、姉貴は立ち上がって救急箱を片づける。
そういえば、俺自身が救急箱を開けたことなど一度も無かったような気がする。

「でもねぇ、一護」
救急箱をしまって、俺に背を向けたままで姉貴がふいに口を開いた。
「喧嘩、するなとは言わないからさ」
「…」
「せめて、怪我したら、あたしのところにスグに来てよ」
「…」
振り向いた姉貴は、笑っていた。
「手当てぐらいはさ、あたしに心配させてよ」
「…姉貴」

なんたって、お姉ちゃん なんだからさ

「弟の怪我の心配くらい、したっていいでしょ?」
ゆっくりと歩み寄ってきて、座っている俺の目の前に姉貴は立った。
今はもう、年上の姉貴よりも俺の方が背はでかい。体格だって、男の俺の方がしっかりしている。
それでも、目の前にいる人は、俺にとって大きな存在だった。弟なんて敵わない、しっかり者の姉だった。
きっと情けない顔をしていた俺は、ゆっくりと姉貴を見上げた。
目が合って、姉貴はとびきりの笑顔を見せる。
そして、手を伸ばして、思い切り俺の頭を撫でた。

「ぅわッ!」
「なんたって、あたしの可愛い可愛い弟なんだからっ!」

ねっ?と満面の笑顔で笑いかけてくる姉貴は、昔も今もおふくろ同様 大事な人なんだ。



一番身近で、大事な、そこにある愛情はきっと
Family Love


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