どうしてこんなことになったのだろう。
とりあえず、状況が全く読めない。さっぱり分からない。

着々と決まっていく委員会の割り振り。
知らぬ間に黒板に書かれていた、担任のお世辞でも綺麗とは言えない私の苗字。

それと、その隣に連なる、同様に綺麗とは言えない“仁王”の文字で。

机の下、膝の上でこっそり読んでいた本を広げたまま、ただ呆然としてしまった。


1.


曰く、昼食前の先ほどの授業は担任の歴史の授業で、授業の最後で委員会の割り振りを決めていたようだ。
ところが、昨日発売された本に夢中になっていた私は自分の希望を書くタイミングを完全に逃し、呆れた担任が勝手に図書委員会に決めたらしい。一応私の承諾を得ようと試みてくれたらしいのだが、完全に小説の世界に意識を奪われていた私は全く気付かなかった。

「だからって、何で仁王くんとなんだろう…」

友人のと昼食をとりながら、私はぼそりと呟いた。本に夢中になってしまう程なのだから、この際図書委員に割り振られたことはまぁ良しとしよう。
問題はその相方だった。

よりによって、仁王くんとは…。

「だから、本に夢中な同様、仁王も睡眠に夢中で、二人とも声かけても無反応だったから決定したの」
「そんな勝手な…」
「話し合いに参加しないアンタたちが悪いのよ」

そう言われてしまうと言い返せないのだが。それにしても、と、思わず肩を落としてため息をついてしまった。

「うっかり本を学校に持ってきたのが間違いだったかな…ついつい読み耽っちゃった」
「普通の女の子なら泣いて喜んでもいいくらいのラッキーだよ?」

まぁ、アタシは違うけど、と最後にしっかり付け加えるあたりが、彼女らしい。
の言うとおり、普通の女の子だったら本当に泣くほど喜んだに違いない。だって、彼はとても人気で、とてもモテるから。容姿は勿論、テニスの腕も本物。どこか飄々としていて、掴めないミステリアス(という表現が正しいのかは分からないけれど)な雰囲気が女の子の恋心を刺激するらしい。
けれど、幸か不幸か私は普通の女の子とは違って。私の中で仁王くんとは『全く読めない人』
読ませてもらえないのかもしれないが、とにかく得体が知れない。同じクラスなのに全く接点もなく言葉を交わしたほとんど記憶も無い。

「関わりが無いからかなぁ…ちょっと、苦手なんだよね」
「まぁ、は丸井とかジャッカルみたいなタイプの方が丁度いいのかもね」
「うー…ん」

でももう決まっちゃったんだから諦めなさい、非情にもはハッキリとそう言い切り、箸を進める。私は「えぇー」と言いながらも相変わらずな彼女に笑いながら昼食をとった。
それから他愛ない話をして、二人で笑いながらあっという間に昼休みは終わろうとしていた。

「んじゃ、授業の支度しますか」

そういって彼女が立ち上がり、私の席から離れたときだった。空になったお弁当箱を鞄の中にしまっていると、不意に彼女が「あっ」と声を発した。それにつられて、自然と顔をあげた私は、彼を見て固まった。

仁王くんが、立っているでないか。しかも、ほんの一瞬目が合ったような気がする。
石になりかけた私は、すぐに何事も無かったかのように、そろりそろりと教科書を取り出して平静を装った。さっきの今で、あまりに唐突であったにも関わらず、比較的やり過ごせたんじゃないかと、くだらない自己満足に浸っていたその矢先。

「仁王、あんたさっきの時間寝てたから、勝手に図書委員に割り振られてたわよ。このコと一緒に」

私はの行動に驚き、目を見開いた。な、なんてことを言うんだ君は…!と叫びたいけれど、そんなこと出来るはずもない。
失礼にも私を指さすの動きを追って、仁王くんが(いつも通り)やる気のなさそうな目でこちらを向いた。

も知らない内に割り振られてたんだけどね」

今更ながら、疑問が思い浮かんだ。どうして彼女は、仁王くんに対してこんなにも自然に接することが出来るんだろう、と。まぁ、そんなこと今気にしたところで、何の意味もないのだけれど。

「ね、
「え、あ、うん」

私は少々ぎこちないながらもどうにか微笑む。これじゃあ苦手意識持っているのバレバレだよなぁと胸の内で自分自身に呆れる。

「そりゃ、お互い災難だったのう」

私の苦しい(としか言いようがない)微笑みに応えるかのように、彼はふっと目元と和らげた、そんな気がした。私は驚いて、呆然と彼の顔を眺めてしまう。
初めてまともに正面から見た彼は、とてもきれいな顔立ちをしていた。染めているのか脱いているのか、彼の銀色の髪は堅そうなのに、ふわふわしているような気がした。

?」
「あっ、うん、そうだね…仁王くんも災難だったね」

慌ててそう返すと、横からが「どっちも自業自得よ」と言ってきて、思わず苦笑した。
チャイムが鳴ってしまい、仁王くんは「だるいのぅ」と呟きながらも自分の席につく。そしても「じゃあね」といいながら席に戻っていった。

先生は教室に入ってきて、午後の授業が始まった。私はのんびりと黒板の内容をノートに書き写しながら、頬杖をついてぼんやりと仁王くんについて考えてみた。
たぶん、初めてまともに会話をしたと思う。不思議でたまらなかった彼は、思ったほど不思議系でもないし、意外にも気さくな雰囲気だった。もちろん『読めない人』という印象にかわりはないけれど、何となく、それが「彼らしい」ように思えた。

コート上の詐欺師と呼ばれる仁王くんだけれど、さっきの彼は、私には普通の中学生のように見えた。