それは一日の始まり
ケータイのアラームで目が覚める
「う…ん〜…」
未だ夢の中の私は少しずつ覚醒していく
「ん、…起きなきゃ」
眠いけど、もっと寝たいけれど、必死に腕を伸ばして起き上がる
起きなきゃいけない、私が起きないと困る人がいるから
顔を洗って、髪を梳かして、朝のニュースを見ながら朝食をとって、歯を磨いて
制服に身を包んで鏡の前に立つ
「よし」
毎朝、こうやって鏡の自分と向き合って気合を入れる
一応女の子だし パンパンッと制服のスカートを軽く叩いて、鞄を持って、ケータイをポケットに入れて、 家を出る
「いってきまーす」
ローファーを履いて、玄関を出る際にひと声
家の奥からお母さんのいってらっしゃいという声が聞こえた
外はまだ薄暗い まだ春だし、少し肌寒いけど私はこの季節が好き
「んー、今日は晴れるかな?」
そんな独り言を一つ呟いて、足取り軽く学校へと向かう
部活動は7時から開始なんだけど、6時半くらいには着くようにしている
着替えなきゃいけないし、それに
「早いな」
「あ、藤真。おはよう」
校門をくぐって、部室に向かっている途中声をかけられた
藤真、バスケ部のキャプテン兼監督の彼は爽やかな笑顔をむけてくる
「さすが、寝坊はしないんだな」
「そりゃマネージャーだもの。私が寝坊したら皆困るじゃない」
苦笑して、私は鍵を取り出す
バスケットボールのキーホルダーのついた部室の鍵
そう、私はバスケ部のマネージャーなのだ
「まーな、でも部活は7時からだからこんなに早くなくてもいいんじゃないか?」
起きるのつらいだろ、と藤真は言う
変な人だね、その言葉そのままそっくりお返しするよ
「そーでもないよ、家近いし。それに、早く来ないと誰かさんが早朝自主練できないでしょう?」
私は笑いながらそう言った 藤真は一瞬きょとん、としてそして笑った
「オレのせーか」
「そうだよ、真面目な監督・熱血なキャプテンのために、早起きするんですよ」
「そりゃ有り難いな」
「でしょう?」
部室の前で、私と藤真はくすくすと笑う
でも責任を感じてやってるんじゃないんだよ?
皆が頑張ってるから、少しでもそれをサポートしたいの
「優秀なマネージャーがいるから、オレも安心してプレー出来るんだよな」
「もっと誉めていいよ」
鍵を取り出そうとしていると藤真に「バーカ」と小突かれた
ガチャ、と鍵の開く音がし私はドアノブに手を伸ばした
「お、日が昇るぞ」
不意に背後から届いた藤真の声に私は後ろを振り返る
暗い外がだんだんと白っぽくなっていく まるで時間が止まったような静かな空気の中
遠くの方から光が見えた
「今日は晴れかな」
「あぁ」
私はずっと扉の前で日の出を眺めていた
晴れの日は好き
温かいし風も気持ちいいし、スポーツをするには一番の天気だと思う
今日も、頑張ろう
素直にそう思えるのは、爽やかな朝のおかげ 綺麗だな、と思いカメラを持ってたら良かったのに、と少し残念に感じた
けれど この一瞬を見ることが出来たのも 早朝自主練をする藤真のために鍵を持って早起きしたおかげ
「なぁ、」
「ん?」
不意に聞こえた藤真の声に、私は自分がこの景色に見とれていたことに気づく どうやら彼は私の隣で一緒に今の瞬間を眺めていたようだ
何?と言って藤真の方を見ると 彼はにっこり笑った
「明日からはオレが迎えに行ってやるよ」
「…え?」
「いくら日が昇るのも早くなってきたっつっても、まだ早朝は薄暗いだろ。 一応女の子なんだしさ、危ねーじゃん」
だからオレがお前ん家まで迎えに行くから、と藤真は微笑んだ
なんだか急に恥ずかしくなって、真っ直ぐ藤真が見ることが出来ない 明るくなってきた辺りを見るふりをして私は視線をそらす
「ありがと…」
「おぅ」
太陽の光を浴びて眩しい笑顔で藤真は笑い、部室へと入っていった
私は明けていく空を見ながら、一人微笑む
「彼氏彼女みたい」
なんて、呟いてみたり…
「あれ、でも藤真私の家どこだか知ってるのかな…」
あとで、聞いてみよう
着替え終わり部室から出てきた藤真に先ほどの疑問を尋ねる
すると藤真は「あ〜…」と言って腕を組んだ(そりゃ知らないよね)
「今日の帰りから送ってく。そんで覚える」
「え!…いいよ悪いよそれ…」
さすがにそこまでお世話になるのはこっちの頭があがらない
けれどそれを聞き入れてもらえるはずも無く
「彼氏彼女“みたい”、じゃなくて彼氏彼女な」
にやりと不敵な笑みを残してそのまま彼は体育館へと向かっていく
私はただそこに呆然と立っていた
「さっきの、聞こえてたの…」
早起きは三文の得、ということわざを聞いたことがあるけど
三文がどれくらいかイマイチよくわからない私だけど
これは…
「かなり得してるよ、ね…?」
曙-あけぼの-
ちょっとの早起きで、私は貴方に急接近した