If there is parting, there is an encounter.
An end is a new opening.
「あーぁ」
屋上 風に当たって独り私は黄昏ていた
「明日かぁ」
ぽつりと呟いてみてもその声は空気に溶けて消えてしまう
悲しいことに、誰にも届かない
切ない、悲しい、そんな言葉では言い表せない程の喪失感
風が吹き付けて、目にしみた
「お前、何やってんだ」
不意に届く声に、後ろを振り向くと
「…藤真」
その人の姿を見ただけで、泣きたくなる
良きクラスメートであり、良き隣人であり、気がつけば好きになっていた相手が、彼だった
「屋上で黄昏るなんて、あれか?青春」
こちらに歩み寄る彼は笑いながらそう言う
私も小さく笑った
「卒業前日だから、最後に屋上でね」
そう、明日は卒業式
どんなに嘆いても、明日はこの翔陽を去らなければならない
勉強も、部活も、行事も、何もかも手放すときがきた
「一人で屋上だなんて、かなり切ない青春だな」
「今しか、出来ないからね」
明日を過ぎれば会う機会はほとんど無くなってしまう
時間がたてば、きっと記憶は無意識のうちに色褪せてしまうだろう
「式を迎える前に、思い出に浸ってみようかと思って」
「…成る程な」
学校とも、クラスメートとも、この隣人とも…大好きな藤真健司とも別れてしまう
こんなに、悲しいことはない
昨日まであんなに楽しく毎日を過ごしていたのに
一緒にわらい合って、幸せだったのに
卒業という別れが、今すぐ目の前まで迫っていた
こうやって別れの日が訪れると、人は後悔というものを覚える
私も、今まで押し込めていたものが胸いっぱいに溢れてくるのを感じた
「なんかさ、こうしてると『あのときあーしておけばよかった』とか、思わない?」
「例えば?」
「例えば…」
購買のパンを全部制覇したかった
「してなかったのか、お前」
もっと授業サボればよかった
「結構サボってたろ」
もっと、皆と遊んでおけばよかった
「…そうだな」
さすがの藤真も、最後の言葉には同意してくれた
やっぱり、そういうもんなのかね
そういう風に思うもんなんだよね
でも、私はもう一つだけ後悔してるの
先月の14日、バレンタインの日、私は藤真にチョコをあげようと思っていた
告白の勇気は無くても、どうしても渡したかった
その日だけでいいから、“隣人”ではなく“女の子”になりたかった
でも、チョコを持った大勢の女の子が押し寄せてきて彼が顔を顰めたから、やめた
私は、女の子としてチョコを渡すよりも、愚痴を聞く隣人でいることを選んだ
あのときは、それが一番だと思ったけれど…今頃になって、渡せばよかったかな、なんて思う
やっぱり、好きだから
「俺も、後悔してることあるんだよな」
「藤真に?」
私は驚いて顔をあげた
だって意外すぎる、完璧な彼に後悔なんてものがあるなんて
「あるんだよ」
藤真は私の隣にやってきて、フェンスに身体を預ける
そしてゆっくりと語り始めた
「バスケも、まぁ後悔してるとこあるけど…でも俺たちは必死に練習したしな。 結果はダメだったけど、試合が終わった直後の達成感は最高のものだったと思う。 俺だけじゃない、きっと花形たちもそうだっただろうし。」
「うん、…すごかった」
知ってるよ、皆が…藤真が、一生懸命になって練習してたこと
「改めて言うけど、お疲れ様」
「おぅ」
ふっと笑った彼はとても輝いていた
「でもなー、もう一つあるんだよな」
「もう一つ?」
「バスケは努力したけど、これに関しては俺…何もしてないから」
だから、後悔してる…と呟く彼はとても悲しげな笑みを浮かべていた
悲しげで、切なくて まるで、藤真を想う自分を見ているような
「好きな奴が居たんだ。っていうか現在進行形なんだけど」
「…」
ドクン、 と心臓が跳ねた
藤真に、好きな人が居たなんて知らなかった
だって彼は、ファンの子ですらあまり好いていなくて、いつもバスケ部の仲間と居て…
ショック、だな
藤真に好きな人が居ることにもショックだけど、何より 長いこと隣人だったのに、何も知らなかったことが、ショックだ
「好きだなーって結構前から想ってて、でも伝えようとしなかった。 バスケだとか受験だとか言って、理由付けてて…。結局怖くて逃げたんだ」
一つひとつ、彼は話していく その瞳は悲しげで、でもとても綺麗で
ああ、本当にその人のことが好きなんだな、とそう思わずにはいられない程で
耳を塞いでしまいたい、ここから逃げたい…そう思っても出来ないくらい私は真っ白になった
「藤真も、そういう人居たんだね」
必死に笑ってみせる
ずっと隣に居たはずなのに、色んな悩みとか愚痴とか聞いてきたけど、好きな人がいるなんて知らなかった
何だか…泣きそう
「…っ」
「…って、何泣いてんだよッ?」
「ごめ…ッ」
馬鹿だなぁ私…何で泣くのさ、今ここで
最後くらい、潔くいこうよ
後悔するくらいなら… やることやってから、泣こうよ
「藤真ッ、…」
「ん?」
涙を制服の袖で拭い、顔をあげると 間近に彼の顔があった
その表情は心配そうで、優しいもので、 ああ…やっぱり
「好き…」
「え…」
「私、藤真が…好き…っ」
明日は卒業
そしたらもう会う機会も無くなる
言わないで後悔するなら、言って後悔したい
「ずっと、ずっと好きだった…!バレンタインに、チョコあげたかったんだけど…怖くて、出来なかった…」
「…」
「仲のいい隣人でもいいって、そのときは思ったけど…やっぱり …っ」
後悔は、したくないから
「先に、言うなよ」
「え…?」
「俺が、言おうと思ってたのに」
その言葉に私は涙を流したまま、彼を見た
でも、一瞬にして藤真の肩しか見えなくなる
抱きしめられた
「さっき、お前がここに居るって聞いて…勇気出してきたのに、先に言うなよ」
耳のすぐそばで聞こえる優しい声
ずっとずっと好きだった、そして今も大好きな藤真の声
「俺も、お前が好きだ」
ただ、その一言 でも、欲しかった言葉
一番望んだ事
勇気を出してよかった
勇気を出して後悔することなんて、きっと無いよね
「聞いてんのか?」
「うん、…聞いてる」
「好きだから、さ」
「うん、…私も」
「…早く言えよな」
「藤真こそ、早く言ってよ」
「ウルセー」
「何それ」
お互い、抱き合ったまま笑う
温かい、全てに幸せを感じる
ゆっくりと身体を離し、私たちは見つめあった
「明日で卒業だけど、俺たちはこれからだぞ」
頷くとまた、涙が流れる
何だか、嬉しくて、可笑しくて 私は泣きながら笑った
「素敵な青春を、ありがとう」
「俺こそ、サンキュ」
「これからもよろしくね」
「ああ」
明日、私たちは桜吹雪のなか卒業する
けれどそれは別れじゃない
これからの2人の新しいスタート地点だから
卒業-青春は永遠-
勇気を出せば後悔なんかしない。未来だって、きっと開ける。
だから、これからも君と