第一印象は

無口・背が大きい・よく寝る

ただそれだけだった 





隣の席の ルカワカエデ 君はよく寝る
流れる川に楓っていう綺麗な名前は、彼の顔にも表れていて
結構女子に人気な男子

話したことはある

「流川くん、」

小声で声をかけても全く反応がない
熟睡ってこういうことだきっと

「流川くん、次当たるよ」
「…」

少しだけ声を大きくしたって彼の耳には届かない
結局寝たままの状態で当てられて、それでも彼は起きなかった
呆れた先生は流川くんの次の出席番号を指名した

朝も昼も午後も
HRも授業中も休み時間も、彼は寝ていることがほとんどだ
唯一昼休みだけ、ゆっくりと起きあがってそのまま教室を後にする
そして5分くらいすると帰ってきて、購買で買ったパンを頬張ってすぐにまた眠りにつく

寝る子は育つって言葉、流川くんのためにあるんだろうな


そんな日常を毎日繰りかえりしていたある日、日直が回ってきた
黒板に書かれている名前は私の“”という文字と、“流川”の文字

HR後、珍しく机に伏せていない流川くんに私は声をかけた

「流川くん、私たち今日日直だって」
「…おー」

たった一言、返答にも満たない反応をすると大きな欠伸をして眠そうな表情をした
そして1限が始まったと同時に彼は机に伏せてしまった

日直の仕事は結構面倒だ
毎時間授業が終われば黒板を消さなきゃいけないし、日誌も書かなきゃいけない

どうせ流川くんは寝ているだろうからあまり仕事はしてくれないだろう
それにバスケ部でとてもハードな練習の上に彼はこの湘北のエースだから絶対に疲れている
だから出来るだけ寝かせていてあげたいと思って、日直くらい1人でやろうと思った

午前中の授業は良かった
一人で仕事をしたし、流川くんも気持ちよさそうに寝ていたから

ところが、難関は5限終了後にあったのだ

「と、届かなぃ…ッ」

黒板消しを持って、反対の手で黒板の縁に捕まって、必死に伸び上がる私の滑稽な姿

迂闊だった…
5限は数学
あの先生は背が高いうえにやたら筆圧が強くって
いつも皆その先生の板書を消すのに苦労していたことを、そのときまですっかり忘れていた

「う〜…ムリッ」

はぁーと息を吐きながら力を抜き、私は肩を落とした
黒板の上の方に残ったチョークの文字

仕方ない、諦めるしかない

「次の先生、自分で消せるよね」

クラスの誰かに頼むのもなんだかあれだし、ちょっとくらいイイだろう
そう思って黒板消しを置いて、私は手についたチョークの粉を払った


「貸せ」


振り返ろうとした途端、自分が何かの影の中に入った
そしてその言葉に、咄嗟に首を捻る

視界に、制服のYシャツが飛び込んでくる
それが誰のものか、私は確信を得るために目の前の人を見上げた

「る、かわ君…」

ずっと高いところに見慣れた彼の顔があった
やっぱり寝る子は育つ、さすが湘北のエースと呼ばれるバスケットマン
間近で見るととても大きいんだとわかった

その高さに圧倒されて、そして意外なことに驚いて
しばらくの間呆然と彼の黒板消しを持った手を眺めていた
そして黒板に白い文字が無くなって、黒板消しがもとの場所に戻された

「ごめんね…流川くん」
「ん」

ちらっと一瞬だけこちらを見て、すぐに彼は手についたチョークの粉に視線を動かす
手も大きいんだなぁ、と思った

「ありがとう、助かっちゃった」

私小さいからさ、と苦笑いをすると流川くんがこちらを見た
そしてしばしの沈黙の後、ゆっくりと口を開く

「届かねーなら言え」
「え…あ、…ウン」

予想外の言葉に呆気にとられごめん、と再び言うと彼はそのまま自分の席に帰っていった
私もふらふらと席に戻る
何だかやけに心臓がドキドキしてて、急に流川くんの顔が見れなくなった

「日誌は」
「えッ」

突然声をかけられ、驚いた私は慌てて彼を見た
机に頬杖をついて、少し首を傾けてこちらを見ている流川くん
一瞬にして カッコイイ という言葉が頭に浮かんだ

「日誌」
「あ、うん…もうほとんど書いたから…」

放課後先生に持っていっておくね、と少し上ずった声でどうにか伝える
流川くん、日誌の存在知ってたんだね…と少しだけ思った

「一緒に行く」
「え…でも、部活…」
「十分間に合う」
「…あ、そっか」

うん、と曖昧な返事だったけれど彼はそれで納得したらしく欠伸をした
そして授業が始まって、10分もしないうちに彼は眠りの世界に行ってしまった

放課後2人で担任のところにいくと
「おーなんだ流川、日直の仕事やってんだなぁ」と担任が妙に感心していて
流川くんは一瞬眉間にしわを寄せた

全ての仕事を終えると、彼は「部活行く」とバスケ部の部室へと向かっていった
私はまだどきどきしたままで、それでも「バイバイ」と手を振って大きな彼の背中を見送った

「今度、バスケ部の練習観にいってみようかなぁ」


そう呟いたとき、すでに私の心は動き出していた。




ときめき
その答えは彼が持っているはず。



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