嗚呼、俺の好きな人よ 愚かな俺を、どうか許して

嗚呼、俺の愛しい人よ 君への想いを、どうか許して



俺は、君が好きなんだ。
きっと、ずっと前から好きになっていたんだ。

教室の真ん中で皆でふざけ合っている時も、二人だけで他愛ない話をして笑いあっているときも、俺は君しか見ていなかった。
ずっと、だけを想っていたんだ。


他の女の子と一緒にいることだって、少なくなかった。
けれど、どんなに相手の子が俺に好意を寄せてくれていても、あまり嬉しくなかった。逆に、何故か悲しかった。

なんでじゃないんだろう、って

他の誰かを君だと思って、なんて俺には出来ない。

俺がすきなのはだから
俺が欲しいのはだから

誰一人として君の代わりではないし、君ではないんだ。

こんなにも君が好きで、俺の胸はいっぱいで。
なのに俺はそれをずっと君に隠していて。
このクラスでと一番仲がいいのは俺だと、自惚れかもしれないけれど、自信はあって。
けれど結局は友達のまま、「好き」と言えないままなんだ。

何故なら君にはすでに 好きな人 がいたから

アイツと下校する君を何度も見かけた。嬉しそうに顔を綻ばせて廊下で会話をする二人のわきを何度も通り抜けた。

その度に心臓が締め付けられて、痛くて苦しくて、泣きたくて堪らなかった。

なんで俺じゃないんだろう、って

だけど俺は弱いから、臆病だから、
君のそばにいたくて、君が離れていくのが怖くて、
この気持ちに今も蓋をしている。

いつでも 親しい友人 として振舞って、馬鹿みたいに必死に笑顔を貼り付けて。

本当は、こんなにも君が好きなのに
こんなに、が大好きなのに


でもある日、俺は気づいてしまった。


がアイツと上手くいっていないこと


アイツに会っても嬉しそうな顔をしない君を見てしまった。
君と向かい合っても微笑みひとつ見せないアイツを見てしまった。
二人が一緒にいる時間が次第に少なくなっていることに、気づいてしまった。

そして俺は最低なことに、今日、とうとう サヨナラ をしてしまった二人を見て、喜びを感じてしまった。

醜いことに、嬉しくて仕方が無かったんだ。

そんな自分が嫌だと思わないわけじゃない。嫌悪感は思いっきり俺の中に存在している。
けれど、こんなにもを好きな自分が、俺は好きだった。少しだけ誇らしかった。
大嫌いだった自分が、少しだけ好きになれたんだ。

臆病で、愚かで、醜い。
こんな俺じゃが好きになってくれるはずがない。
そう分かっていたはず、なのに


俺は今、とても卑怯なことを、しようとしている


「ぅ…ッ、…ッ」

夕暮れ色に染まった、人気の無い教室で
終わってしまった愛に悲しみ、惜し気もなく涙を流す君。
いつもの元気なんてどこにもない、悲しみに暮れて泣きじゃくる君。
その目の前に今、俺がいる。

細い肩が震えている。
長い睫がしっとりと濡れて、赤い目元に影を落としている。
瞳から溢れる涙に濡れる頬と、懸命にそれを拭う白い手が俺の目前に晒されていて。

ああ、俺は何て最低なんだ。

好きな子が目の前で泣いているというのに
好きな子が心を傷めて悲しんでいるというのに

初めて見る君の涙が愛おしくて、またひとつ君を知ることが出来たのが心の底から嬉しくって、堪らない。

「ねぇ、…

酷く掠れた声しか出ない。心臓がやけに五月蝿くて、息が苦しい。

「キ、ヨ…」

涙に震えた声が微かに聞こえた。
その甘美な刺激で俺は眩暈を起こしそうになる。
抱きしめたい。抱きしめて、この腕に閉じ込めて、俺だけのものにしたい。

俺は何て卑怯なんだ。

悲しんでいる彼女を慰めて、そして、その僅かに生まれた隙間につけ込もうとしているんだ。

ねぇ、の心に、入ってもいい?
俺を入れて。少しでも良いから、俺を入れて。
君の心に、俺の想いを。

、俺ね」

ゆっくりと手を伸ばし、髪を撫でる。
が、濡れた瞳で俺を見上げる。

「キ、ヨ…?」

俺の名前を呼ばないで__________俺の名前を呼んで
君の心に俺の入り込める隙間なんてないのなら__________少しでも君の心に俺が入り込める可能性があるのなら

嗚呼、もうこの恋は止められない
限界なんだよ、

「俺、ずっとずっと前から、が好きだった」

俺の告白に、君は驚いて目を見開く。
ごめんね、卑怯な俺で。

「好きで好きで、でもにはアイツがいたから…だからずっと隠してた」

「…キヨ」

「言ったら、嫌われて一緒にいられなくなっちゃうんじゃないかって…そう思ったら何も言えなくて」

今、俺は君を困らせているんだろうか。
だとしたら俺は嬉しい。
俺のことを考えていてくれるなら、俺は嬉しい。

「好きだよ、。君が世界で一番、好きなんだ」

髪を撫でていた手をそっと滑らせて、頬に触れる。
優しく、そっと、傷つけないように。

「ズルイんだ、俺。がアイツと別れて、すっごく嬉しいんだもの」

は俺の手の上に自分の手を添えて、小さく首を横に振る。

「卑怯だよね。泣いてる君を慰めて、つけ込もうとしてる」

そう言うとまた、首を振る。さっきよりも強く、俺の言葉を否定するように。
さっきよりも涙が治まった君は、暫く俯いて、そしてゆっくりと、ぽつりぽつりと話し始めた。

「ズルイのは、キヨじゃない…卑怯なのも…」

まるで懺悔をするように紡がれる言葉。
俺はただその言葉を黙って聞くことにした。

「私、私ね。あの人と居るのに、何故かいつもキヨのこと考えてた…」

その言葉に、俺の心臓はドクンと大きく跳ねた。

「楽しいこととか面白いこととか、美味しいものを発見するといつも『キヨに教えてあげよう』って思ってたの…」

さっきまでは泣いていたの頬が熱かったのに、今は触れている俺の手の方が、熱い。

「二人きりになってもね、…ふと、『キヨは今何してるかなぁ』って考えたりしてた」

全身の血が逆流するんじゃないかって思った。
ぎゅっと、心臓が締め付けられて息が止まった。
どうしよう、どうしようどうしよう。

こんなに、嬉しいと思ったのは、生まれて初めてだ。

「あの人と上手くいかないと、すぐにキヨのそばに行って、笑顔を見せて優しく接してくれるキヨが私には必要不可欠で…」

________キヨは、ずっと私の心の中にいたの________

…ッ」

「ズルイのは、私…卑怯なのも、私なの…」

__________だから、キヨは全然ズルくないし、卑怯なんかじゃないよ。

そう言ったの表情は少しだけ微笑んでいて、どこか切なげで、とても綺麗だった。

クソッ…!

内心、何に対してか分からないが小さく悪態をついて、俺は衝動のままに愛しい君を引き寄せ、抱きしめた。
ずっと、長いことこうしたかったんだ

思い切り腕に力を込めて、俺よりも遥かに小さいその身体を閉じ込める。
抵抗はされなかった。それが余計嬉しくて、俺の想いは止まらなくって、どうしようもなく幸せだった。

、好きだよ…」

「うん、ありがとうキヨ…」

ねぇ、断らないの?否定しないの?
このままじゃただただ俺の都合のいいように、解釈しちゃうよ?

本当は、想いを伝えるだけでいいと思っていた。
けど、いざとなったら僅かに見えた希望に縋りたくって。その可能性があるのなら諦められなくなって。
君の答えが、どうしても聞きたいんだ。

少しだけ力を緩めて、身体を離し彼女の顔を覗き込む。

「俺の彼女になって下さい、って言ったらどうする…?」

怖い、けれどもう逃げたくない。
折角君を好きになって、俺は自分も好きになれたんだ。
お願い。お願い。お願い。

「なります、って、言っちゃう、かな」

君は苦笑のような微笑を浮かべてそう言った。
本当に、本当に?

が…アイツと別れて、悲しんでるところにつけ込もうとするような男だよ?俺…」

____________こんな俺で、いいの?
そう俺が言うと、今度は明らかに苦笑を浮かべて。

「キヨこそ…恋愛中に他の人のこと考えたり、さっき別れたばっかりなのにもう他の人の腕の中にいるような女だよ?」

こんな私で本当に後悔しない?と君は言う。
何だかちょっとおかしくって、俺は少しだけ笑ってしまった。
もつられて笑っている。

ああ、もう、ホント君という人は

頭を前に倒して、そっと額を合わせる。
君のくれる全てが甘くて甘くて
触れてる全ての箇所から溶けて一緒になれたらいいのに、なんて思った。

「俺は、が俺のこと好きでいてくれるなら、何でもいい。ズルイとか、卑怯とか、そんなことはどうでもいいんだ…」

「私も、キヨが傍にいてくれるなら何でもいい。キヨがいないと、ダメなのよ…私」

至近距離で視線が絡む。
君の瞳に、俺が映っている。
どうしようもない幸福感が俺を襲って、今にも倒れそうだった。

「好きだよ、

「私も…キヨが好きだよ」

ぽつりと互いに囁き合って。
ついにその想いは通じ合って。

そっと触れた唇は、涙の味で少しだけしょっぱくて、けれど極上の甘さを俺に与えてくれた。

卑怯恋心実る
君への想いが、俺を変えてくれたんだ。