面倒だというしょうもない理由でよく学校を休む
学校に来てもほとんど一人
笑いもせず、飄々としていて、授業はほぼ睡眠に変換
無謀にも声をかけ、いつのまにか唯一あの男と話す女子となった私

ほかの女子に「すごいね」「アンタってある意味尊敬する」などと言われるが
ぶっちゃけ、結構話やすいよ?

ただ、ひねくれてるけど。




そんな君に恋をする。




「キモい。お前」

何度目の“キモイ”だったかも忘れた(もともと数えてないけど、ね)
鬼とか、悪魔とか、そういう血も涙も無いものに対する例えはきっとこの男のためにあるのかもしれない

誰もいない夕方の教室で、窓際で2人きり
机に足をかけてその辺にあった誰かのジャンプを読んでいる不機嫌な男
その脇で泣く私

かなりヘンな光景だ

「いつまでそーしてんだよ。キモイっつってんだろーが」
「ウッサイ。アンタマジで最低」

この男は不機嫌というものを隠すことを知らない
その暴言に近い言葉を正面から打ち返す私だって結構なモノだ

けれど
暴言を打ち返せても
何度言われようとも、涙が止まらない

(人前でこんなに泣いたのはかなり久しぶりかも…)

「チッ」
「ちょ、舌打ちとかホント腹立つんだけど…つうか慰めるとか励ますとか出来ないわけ?バカ杉」
「ウルセェよ。そもそもお前が泣くこと自体驚きだぜ」

キモ、とまた言われる
またムカっときたけど、でも下手に慰められてもちょっとあれなので、丁度いいのかもしれない
つうか、高杉が誰かを慰めるとか…それこそキモイ

「大体なぁ、男にフラレただけで泣くとかありえねぇだろ」
「フラレてまーせーんー。ただ相手に好きな人が居たって知っちゃっただけですぅーっ」
「それをフラレたって言うんだよ、バァカ」
「ウルサイ、バァカ」

自分でわかってる、が、それをコイツに言われるのは癪に障る(だってバカ杉…)
ホント、コイツも私も大バカだ


フラレた
直接ではないけど。
少し前から好きだった人には、好きな人が居たのだ
それを、本人の口から聞いてしまったのだからどうしようもない

意外にもその事実に大打撃を受けた私は
何故かこの男にグチった

偶然この男に「お前、アイツのことスキだろ」と見破られてしまったことがきっかけだったのだが
唯一知っている、というだけで無意識のうちに高杉のところに来てしまった

「いつまで泣いてんだよ、ウゼェ」
「泣いてる女子に向かってウゼェとか、マジでヤな男だね高杉って」
「失恋したくらいで脇でメソメソ泣くお前も俺からしたら十分ヤな女だ」
「…ムカつくわ、ホント」
「勝手にムカついてろ」
「…」

少しだけ、涙が止まってきた
コイツの前で泣く自分が、恥ずかしいというか情けない、と思ったからかもしれない
少し頭が冷えてきて、泣いてる自分がアホらしく感じた

(…あんな男、もう忘れよう)

グズッと鼻をすすって袖で目をこする
大分落ち着いて、もうほとんど涙は出てこなかった

「…あーぁ」

思わずため息をつく
チラっとこちらを見た高杉だったが、呆れたように小さく息を吐き、すぐにジャンプに視線を戻す

冷静に考えてみれば、逃げないだけマシなのかもしれない…と思う
人の失恋話なんてどーでもいいことなんだ、この男には
それでも、キモイと連発しながらも、傍にいてくれたことは
この男なりの優しさなのだろうか

…いや、ないな
ないだろ、それは。
この男に限って、そんなことは 無い。

「高杉、」
「…」

人が呼んでんのに返事も無しでシカトですかコノヤロー
そんなにジャンプが好きか

「高杉…目、悪くなるよ。夕方の暗い教室で本読むなんて…」
「お前は母親か」
「アンタみたいな不良息子絶対ヤだ」

そう言うと高杉がまたこっちを見た
睨むその顔が、とにかく不良っぽい

「あーあ、邪魔してゴメン。でもちょっとスッキリしたかも」
「へっ、そーかよ」

ぶっきらぼう、というか、スゴク面倒くさそうな言い方
それでも、コイツなりの優しさなのかもしれない(キモチ悪いけど)

「ウンもう結構吹っ切れたわ。じゃ、帰るねアタシ。TV観たいし」

もう忘れよう、あんな男
世の中に野郎なんて山ほど居る、世界の半分はそれなんだから
泣いたらだいぶスッキリしたし、今はフラレたことよりもTVのほうが重要な気がした

「さっさと帰れ」
「アンタって…やっぱムカつくわね」

最後の最後まで随分なことを言ってくる高杉
負けずに何か言い返してやろうと思ったが、止めた
一応傍に居てくれたし、まぁその感謝もあって、暴言はナシにしよう

(だからってお礼なんて言ってやらない)

感謝半分怒り半分でカバンを持って立ち上がる
私が帰ろうとしても、高杉はジャンプまっしぐら

「じゃあねー高杉」
「…」

返事なんか、無い
人が折角手まで振ってあげてるというのに、薄情なヤツだと心底思った
どうせ期待したってムダだと思い、私は教室から出ようとした

、」
「んー?」

不意に背後から呼び止められ、私は後ろを振り向く
私を呼んだ高杉はこちらを見ることなく、ジャンプを閉じて机の上に置いた

「え、何」
「…帰る」

そう言って、教科書どころか筆記用具すらまともに入っていないカバンを持って
高杉は重たい腰をあげた

何なの一体
帰るって、私に関係ないんなら最初ッから呼ばないでよ
カバンを担いでドアまでやってくるその男に呆れて小さく息を吐く

放って置こうと思い廊下に出たが、呼び止められたのに何も言わずに帰るのは何だか微妙で
もう一度だけ、私は高杉を見た

「じゃ、バイバーイ」

無愛想なその男に手をひらひらと振る

「オイ」

廊下を歩き出して、というか1歩目を踏み出したがまたしても呼び止められ
結局脚が止まってしまった

さすがに少しイラッときた私は呆れ半分苛立ち半分でまた高杉を見る

「もう、何なのよさっきから…!」

用があるならさっさと言ってよ!と言ってみるものの飄々としたこの男は何も答えない
ただその目つきの悪い表情でこちらを見ている

私はドアの外の廊下に、高杉はドアの中の教室に
その距離は20aかそこら
向かい合って立つが、身長差から視線の高さが違う
意外にも高杉の背が大きいということに気づいた

「…お前」
「何よーもー」

言いたいことがあるのならハッキリ言えばいいのに
遠慮しているのだろうか、と思ったがこの男に限って遠慮なんてものは存在しない

真っ直ぐに見られ、さすがに居心地が悪くなった私は1歩後ろに下がった
すると高杉はそのまま1歩前に踏み出し、廊下に出た

「…?」

(何、何がしたいの、言いたいの!?)

わけがわからず不審気に首をかしげる私などになど目もくれず、高杉は廊下を歩き出した
人を散々呼び止めておいて、何も言わずに帰るつもりなのだろうか

急に腹が立った私は、何か言ってやろうと考え咄嗟に思い浮かんだ言葉を口にした

「高杉、もしかしてアンタ、アタシと一緒に帰りたいわけ?」
「!」

自分で言って、正直気持ちワルイと思った
お互いに、そういうキャラじゃないんだ

考えなしにそのまま口にしたことをすぐに私はすぐに後悔する

(あーきっと、頭変な奴だとか自意識過剰だとかバカにされるんだろうなぁー…)

瞬時にそう思い、後悔たっぷりで高杉を見つめている
歩く脚は、すでに止まっていた
あまりの気持ちの悪さに、固まってしまったのかもしれない…と無意味な罪悪感が沸き起こる

が、視線を動かしていくにつれ、後悔とかそんなものはふっと消えてしまった
私はそれを凝視する

瞬きも呼吸も忘れ、ただそれを見た
その、真っ赤になったヤツの耳を。

え?

……

えっ!?

「図星ぃッ!?」

驚いて、叫んでしまった

「まさかうそでしょ!?え、だって…ありえないよねぇ高杉!?」

信じられないと騒ぎ立て、その固まってしまった背中に触れようと手を伸ばすと
触れる寸前で高杉が振り向いた

「ンなわけねーだろッ!!」
「…」

そのカオは、説得力の無い程赤くて
大股で逃げるようにその場を離れた高杉を呆然と見つめる私の顔、も熱くなった

「ウソ、だぁ…」

嘘だと、信じられないと口にはするが、それでも鼓動は早くなり何だか落ち着かない

だって、あの高杉だよ?
あんなに人のこと散々バカにしてて…
今日だって人が泣いてるのに慰めの言葉すらくれず時折暴言を吐きながら話を聞いてる、だけ

あれ…

「話、聞いてくれたの…高杉だけじゃん」

女友達はみんな帰っちゃった(慰めメールは来たけど)
男友達なんて、そんな泣きつけるような人は居ない

「……」

もしかして

話を聞くことそのものが、私に対するせめてもの慰めだったのかもしれない
あの不器用な男なりの…

先に行ってしまったヤツを追いかけるように廊下を走り階段に向かった
すると、踊り場の壁に寄りかかっている高杉の姿が目に飛び込んできた

「高杉…」
「…おせぇんだよ」

優しさの欠片も見当たらない言葉だけど、待っていてくれたこと自体この男の優しさなんだ
さっきよりはおさまっているけれど、その耳はやっぱり赤い

赤くなってるヤツがおかしくて、さりげなく優しいところが嬉しくて
思わず頬が緩む

「一緒に、帰りたいわけじゃないんでしょう?」

さっきそういったじゃん、とほんの少しだけからかってみる
私も、結構意地が悪い、というか可愛くないなぁ

高杉はバツの悪そうな顔をして不機嫌そうに口を尖らせる

「あぁそうかよ!じゃあテメェ一人で帰るンだなッ」

拗ねた子供みたいに言って、高杉は先に帰ろうとする

その後ろ姿がとにかく愛おしくって、引き付けられ
私は勢い良く階段を下りてそのまま思い切りヤツの背中に抱きついた

「おりゃッ!」
「なッッ!?」

予想もしなかった出来事に抱きつかれた高杉はよろめいて
無意識に階段を手すりにつかまる

「テメッ、落ちるだろーが!何のマネだッ!?」

怒鳴り声には、動揺の色が現れていて
私の顔はヤツの背中に押し付けてるから見えないけど、きっとその顔は赤いんだろう
私のように

「あーもー…高杉大好き」
「!」

フラレた直後の、大告白
我ながらバカだと思う

それでも、私はこの男が愛おしいんだ

そう思って、高杉の服をギュッと握り締めた
気持ちがいっぱいいっぱいで、また泣きそうになった

「…スキ…多分誰よりも」
「今の多分は何だその多分は!あぁ?」
「赤い顔してよく言うよ」
「!…クソッ」

舌打ちされたって、もうムカつかない
もう何でも愛おしく思えるから…って、私大丈夫かな?

ちらっとその表情を盗み見すれば、コワい顔だけどそれは赤い
ああもう、ホント可愛いかも!なんて思ってしまう
可愛いついでに、イジメたくなるのだ

「ねぇ、高杉」
「…んだよ」

抱きついたまま、背中にぴったりとくっついて
私は確信が欲しくて、甘えるように言った

「アタシ、本気で好きだよ」
「…」

グッっと胸が苦しくなった

「高杉は…」

どうなの、という言葉が出てこない
けれどきっとこの男だってわかっているはずだ
抱きついたまま、その答えを待つ

、」
「…えッ!?」

不意打ち
急に名前を呼ばれ、驚いた私は抱きつく手を緩め顔をあげた
その瞬間、高杉はくるりと後ろを向いて

「!」

ほんの一瞬
唇に柔らかい感触と、恥ずかしいほど可愛らしい音

「たか、すぎ」
「今更言わせる気かよ」

照れながら、こんな至近距離でそんなカッコイイこと言わないで
一気に顔に火がつき、恥ずかしくなって慌てて俯いた

形成逆転
優位に立っていた私の立場は一瞬にしてこの男に負かされてしまった
悔しくて嬉しくて恥ずかしくて縮こまっていると高杉の腕が伸びてきて、その中に閉じ込められる

「ちょッ、高杉っ…」
「少しは大人しくしてろ」

そう言って、少し腕の力が強まった
私は言われたとおり、抵抗するのをやめる

そして、自分と同じように速いコイツの鼓動に耳を寄せた


最も近寄りがたい、取っ付き難いといわれるこの男に恋に落ちた私


フラレて、泣いて、慰められて、惚れて、告って
ああ私の人生ハチャメチャすぎるな、と自ら感じた

でも、この男と一緒なら、もう何でもいいやと
他のことなんて関係ない、と思う。

とりあえず、しばらく抱きしめられたままでいよう
そして帰る頃には絶対、この男に「好き」だと言わせよう。


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