めったに風邪も引かず、大した怪我もせず
日々平穏に過ごしていた私だが、
ある日スポーツテストで怪我をした
ハードルのタイムを計っていたら神楽ちゃんと沖田くんの2人がケンカをしたまま突っ込んできて、避けきれず2人に巻き込まれて、私たちはすっ転んだ
「おい、大丈夫かッ」
「ちゃん大丈夫?」
砂まみれになった上半身を起こすと土方くんとお妙ちゃんが駆け寄ってきて手を貸してくれた
神楽ちゃんと沖田くんはまだケンカを続けてる…いいや、放っておけ。
「あーもー…」
ジャージの砂を叩いているとお妙ちゃんが急に「あら!」と声を上げた
「ちゃん、膝!怪我してるわ!」
「え、ウソ」
ぱっと下を見ると膝から脛にかけて赤く滲んでいて血が滲んでいる
気づきもしなかったくせに、人間傷口をみたり血をみると途端に傷みを覚える
なんだか足がジン、と痺れた
「あら大変。しょうがないわね、保健室行きましょう」
「さっちゃん」
保険委員のさっちゃんがスッと出てきて私の膝を見てそう言った
お妙ちゃんも「先生には私が伝えておくわね」と言ってくれたので
私は仕方なく保健室に行くことにした
「失礼しまーす、高杉先生怪我人です」
さっちゃんがノック無しでドア開け、保健室に足を踏み入れた
私もその後に続いて入室する
「先生、いらっしゃいますよね?いるんだろコノヤロー」
「…チッ」
先生の誰もいないデスクの方からではなく、私たちのすぐわきのベッドから舌打ちが聞こえてきた
さっちゃんが勢いよくカーテンを開けるとベッドの上で先生が寝転んで雑誌を読んでいた
職務怠慢かコノヤロー、とkれを見て思うのは寧ろ普通だよね
「先生、さんが怪我しちゃったので寝てないで彼女の手当てしてあげてください」
「あぁ?テメーら3Zは毎度毎度…」
「文句言わないでください」
機嫌の悪い先生の言葉にも動じず、さっちゃんは冷たい発言をサラッ吐く
高杉先生は再び舌打ちをして、ベッドから降りた
「ったく…見せろ」
「これ、デス」
私は怪我した脚を指をさしてみせた
高杉先生はムッとした顔をして、そのままデスクの方に行ってしまった
「怪我したんなら、ここ来る前に水で洗ってくるのが常識だろーが」
「でも先生、来る途中で水道ありませんでした」
私がそう言うと、さらに先生の不機嫌さが増した
でも、ホント水道なかったから。マジで。
「…そこの洗面台で、洗え」
「はぁい」
私は言われた通りひょこひょこと歩いて壁に手をついて砂と血まみれの靴下を脱いで洗面台に脚を乗っけた
「おら、はもういいだろ。授業戻れ」
「あ、さっちゃん、ありがとうッ」
蛇口に手をかけて、ドアの前に立っている彼女ににお礼を述べる
さっちゃんは「いいのよ、それじゃお大事にね」と言って保健室を出て行った
残った私は、水水〜と蛇口をひねろうとする。が、動きを止めた
不審に思った先生が苛立ってこちらを見る
「何やってんだ、さっさと洗え」
「…先生」
「あ?」
「…これ、水…沁みますか?」
「…」
「沁みるよね、絶対沁みるよね!」
どう考えても、沁みないはずがないと思った私は蛇口から手を離し
洗面台から脚を降ろそうとした
が、次の瞬間ガシッと足首を掴まれそのまま先生は勢いよく蛇口をひねった
「!」
冷たい水が、勢いよく私の脚に滝のように降りかかる
その水圧が傷口にクリーンヒットするだけでもう泡を吹きそうだ
「水強い、強いから先生!」
「黙ってろ!」
脚を引っ込めようと精一杯抵抗するが、掴まれてるので逃げられない
歯を食いしばって必死にその傷みに耐えるようとするが、なかなかそれは上手くいかず
「痛い痛い痛いッ!」
騒ぐを通り越して、喚いた
「ウルセーぇよ、砂がとれなきゃ困るだろーが。砂利入ったまま肉再生するつもりか?」
「もーいいよ!砂利と一生過ごす!砂利も私の一部になればいいから!」
「アホかッ!」
高杉先生の一括をもらって、私の心の中でマジで砂利を受け入れる覚悟が出来たところで
蛇口がキュッと閉まり、水が止まった
「ご、拷問だよコレ…!」
「バカなこと言ってねーでこっち座れ」
まるで何事もなかったかのようにこの鬼保健医は備品棚の前のイスに座った
あまりにも酷い扱いを受けた気がしたので何か言ってやろうとしたが
先ほどの地獄の水責めのおかげで何も言葉が思いつかなかった
「座れっつってんだろ」
「…(鬼め!)」
ギロリと睨まれ私は渋々反対側のベッドに座った
先生は脱脂綿を挟んだピンセットに消毒液をたっぷり付ける
「ったく、何やったんだお前は」
「ハードル」
「ハッ、転んだか」
「神楽ちゃんと沖田くんがケンカしながらこっち突っ込んで来て巻き込まれェッ〜!」
言い終わる前に、傷口に消毒液がかかり再び泡を吹きそうになる
「しッ沁みるゥ!痛いイタイッ!」
「我慢しやがれ」
人が傷みを訴えてるというのにこの鬼保健医は表情ひとつ変えず傷口をえぐる
先ほどの水責めもきつかったが、これもかなり痛い、っていうか痛い
目の前の鬼を蹴り飛ばし逃げ出そうとか一瞬思った
やっとのことで消毒液責めも峠を越え、私は大きく息を吐いた
消毒を終えて、先生は大きなガーゼを切ってそっと傷口に当てる
そのままテープでそれを貼って、とかなり手際が良い
そりゃ免許持ってるし、専門学んだんだろうけど…なんていうか、人柄的に?
先生の印象的に、…ものっすごく、意外だと心底思う
その意外すぎる一面に感動しながら、私はほぼ無意識の状態で
スムーズに動くその手の行方や真面目に仕事をする先生の顔に見入ってしまった
「…、」
「えッ、あ、ハイッ…」
突然名前を呼ばれて、ぼーっとしていた私はびっくりして素っ頓狂な返答を返す
先生は視線は自分の手元を見たまましゃべった
「目は口ほどにものを言うって、知ってるか」
「…?知ってます、けど…」
一体何の話だ?と首をかしげると先生はなおも状態を変えずに話をする
「どーせ意外だ、とか思ってんだろ」
「えッ…」
図星だッ…読心術!?まさかね…
「顔に出てんだよ、アホ」
「…」
、よく顔に出るタイプだって言われマス。
「だって意外なんだもん…」
「失礼なガキだな」
先生はそう言うけど、包帯を取り出し私の足にぐるぐる巻いていくその手が
こんなにも親切っていうか…優しい、優しい?…なんて思いもしなかったんだから、しょーがないでしょう?
「だって先生、怪我したーって保健室来ても、いつも『ツバでもつけとけ』とか『舐めときゃ治る』とか言って何もしないし、勝手にバンソーコー持ってけって態度だし」
「……」
「この前なんか先生がベッドで爆睡してたって沖田くん言ってましたよー?」
「ぁのクソガキ…」
沖田君の話はどうやら事実だったらしく、先生は目元にしわを寄せて低い声でそう言った
ほら、普段はそういう態度なんじゃん
なのに、今日は真面目で、丁寧(なのかな?)で、水責めと消毒液責めは痛かったけど
こうやってるとなんか、…優しい、し?
「そんな先生が意外だなーって、なんか優しいなーって…思っただけ」
「……」
ガーゼ全体が包帯で覆われ、余った部分を切って結ぶ
気づくと手当てが終わって、いつの間にか脚の痛みはどこかに消えていた
手当てが終わりと、先生は余ったを棚に戻したり、使った脱脂綿をゴミ箱に捨てたりと
黙ったまま片づけをし始めた
そして、ボードに挟まった紙とその辺に転がっていたボールペンをとって、また戻ってきた
突き出されたそれを私が受け取ると「書け」、と一言だけ
命令口調だよ…さっきの優しさはどこに行っちゃったのかな
と思いつつも、余計な事は言わず(まぁどうせ顔に出てるんだろうけど)
ボードとペンを受け取って記入する
「えーと…、3年Z組、…体育で人にぶつかられて転んだ、えーっと」
「転んだだけでいいだろ」
呆れた表情をする高杉先生
でももう書いちゃったからいいよね…
「えっと…処置は、消毒でいいのかな。あ、先生“体温・朝の排便・朝食”んとこ書くの?」
「いらねぇ」
「じゃおーわり」
書き終わってボードにボールペンを乗せて机に置くと、先生がペンを手にとって
最後の項目に“高杉”と書いて紙を渡してくれた
「おら、持ってって銀八に渡せ」
「ハーイ」
立ち上がりながら紙を受け取る
ちらっと見た先生の字は、あんまり綺麗ではなかった
先生はどかっとイスに座って机に肘を突いた
その態度も、やっぱりいつもの高杉先生だ(さっきの優しさは、幻覚?)
「、家にガーゼあるか?」
「…多分ある、気がしなくもない」
家のガーゼなんか覚えてるわけない、と内心思った
あったような、無かったような…
「無かったらそれ持ってけ。風呂あがったら取り替えろ」
肘を突いたまま、顎で示した先には机の上に置かれたガーゼとテープ
一瞬考えたものの、無かったとき困るだろうと思い、有難く貰って行く
「ありがとうございまーす。…って、そうか風呂があった…」
超えたいけどなかなか難関な障害だよ
この傷じゃ絶対沁みるよねぇ…
ヤダなーどうしよー…でも風呂は入らなきゃなぁーと思ってると先生がククッと笑った
「湯船はやめとけ。痛くて浸かってらんねぇだろ。せいぜいシャワーで我慢するんだな」
言ってることは親切なんだけど、その笑いが人の不幸を笑ってるみたいに思える
でも、そっかシャワーで…それでも沁みそうだな…
まだ一つ拷問のような障害があることにハハハ…と笑いながら
先ほど脱ぎ捨てた靴下を拾ってジャージのポケットに突っ込む
ドアの前まで来て振り返って先生を見た
まぁ、何だかんだ言ってしっかり手当てしてもらったし…お礼は言わなきゃね
「センセーありがとうございましたぁ」
おう、とか、ああ、とか、大事にな、とかなんかまぁ返答かえってくるかなーと思ってると
急に高杉先生はイスから立ち上がって、こっちに向かってくる
え、何…?と不思議に思い首をかしげると先生が目の前に立つ
片手を白衣のポケットに突っ込んで、もう片方は私の後ろのドアに手をついて
必然的に、先生は私をを見下ろし、私は先生を見上げるようになる
…え、何。何コレなんか…えええェェ?
思わず後ずさろうと身を引くが、真後ろにドアがあって無意味
どうしよう、…てか何コレ…と顔が引きつる
「…」
「…ハ、ィ…?」
めめめ目、逸らしたいけどなんか逸らせないんですけど!と内心かなり焦りながら
そのまま、もう全身の血の気が引くような感覚で固まってしまった
ああもうなんか、何かわかんないけど私の何か終わったナ…と思っていると、先生がにやっと笑った
「…明日の朝、保健室来い」
「…は?あ、明日の朝?」
自分ではわからないけど多分…目が、テンになったと思う
まだにやにやと変な笑みを浮かべた先生はドアについていた腕をすっと降ろして
そのままその手もポケットに入れた
「ガーゼ取り替えて包帯巻きなおしてやるっつってんだよ」
「は、はぁ…わかりました」
ンなこと普通に言えよ。何で人を、てか生徒を追い詰めるんだよ!?
言ってやりたい…言ってやりたいけど怖くて言えない
とりあえずホッと息をついて私はさっさとドアを開けた
素早く外に出て、最後にひょこっと顔だけ向ける
「あの、じゃありがとーございましたぁー」
ガララララ、バタン
もう先生の返答なんか知るか、とりあえず逃げようと思いさっさとドアを閉め
気持ち早歩きで保健室を後にした
「びっくりした…何だったんだろー…」
まだ心臓がドキドキしてる、と首元に手を当てる
なんかもう混乱してわけわかんない状態だ
「……」
ふと立ち止まって後ろを振り向く
数メートル先に見える保健室
「…明日会って、またドキドキしたらそれって…」
アレかも、しれない。
Is this love feeling?
Yes, it is love feeling.
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