最悪だ。




不幸中の幸い?





「なんなのよもー…」

その呟きは、意味を成さないけれど
それでも溜め込んでるよりはマシ。出しちゃえば少しは楽になるから

雨で濡れた髪を片手で掻き揚げる
ああ髪、伸びたなぁなんて思ってみたり

「世の中って上手くいかないわね」

アタシ…まだ20代入ったばっかなのに、オバサン臭いこと言ってるかも…

でも、それでも‘世の中に対する不満’、それは‘自分に対する不満’でもあるけれど
それを感じずにはいられない

仕事で失敗した
っていうかアタシには非はないはずなんだけど、でも上司には怒られた

財布落とした
給料日明日だからそんなに沢山入ってなかったけど、でもカードは全部オジャン

傘パクられた
どうせビニール傘だったから大した金額じゃないんだけど、おかげで通り雨に濡れちゃったし

「今日は厄日かしら?」

ハンカチで濡れたところを拭きながら、ぽつりと一言

普段ならそんなに気にしないんだけど、すがに一日でこんなにも良くないことが続くと
…ちょっとねぇ…

「大丈夫ですか?」

知らない声に、顔をあげる
知らない男の人が私の顔を覗き込んでいた

「え、えぇ…」

とりあえず、返事を返すとその人はへにゃりと、力なく笑った

黒い髪は長くもないけど、そこまで短くもない
黒い制服は、…あぁ、真選組の人だ…

あまり失礼にならないように、ちらっとだけその人を見る
目線を動かしただけなのに、気づかれてしまう

「元気出してください」
「…」

まるで見透かされているようで

何でもわかってしまうのかしら…そう思うけれど、落ち込んでいる今の私には少し嬉しい言葉で
何となくいい人だと思った

「ありが…「失恋なんて、俺なんかしょっちゅうですよ」



は?



「この前も、“あ、この子いいなー”なんて思った矢先、その人旦那&子供持ちなのを目の当たりにしたし…その前は声かけようとした途端に彼氏登場とかだし」

世の中って酷ですよねーと肩を落としてその人は言う

この人めっちゃ…勘違いしてない?
アタシ別に失恋してないから
落ち込んでるのは別に恋愛沙汰じゃないから

「あのーアタシ別に…」
「大丈夫、貴女結構美人だし。それに神様ってのは意地悪だけど平等ですから。必ずチャンスという敗者復活戦くらいは与えてくれますよ」
「それあんま嬉しくないから」

つーかそんな神様居なくていいから
必ずって言うわりには曖昧な表現ね…

勝手に人の落ち込んだ原因を失恋だと思いこんでいるその人はとにかく慰めっぽいけど微妙な言葉をかけてくれる

「ま、逃げた男を追っかけるなんて醜いことですから。さっさと次の男捜した方が無難ですよ」
「イヤ…」

逃げられてないし
つーか逃げられるような男居ないから

わけのわからないことを綴りに綴っていく真選組の人
一体何なのよ、そう思うのと同時に両手を握られた

「というわけで、俺なんかどーでしょう!」
「は!?」

にっこり笑っているのは、天然なの計算なの!?
つーか何さっきと雰囲気違うじゃない!?
アホアホオーラはどこ行ったのよ!めっちゃテンション上がってんじゃん!!

「俺だったら貴女を悲しませるようなことしません!」
「いやだから…」

何で?という前に、ふと気づく


あ、アタシ口説かれてんの…?!


「…あの、これ口説かれるんでしょうか?」

って、アタシ馬鹿!?普通んなこと聞かないつーの!
何、急なナンパに年頃の女の子みたいにテンパっちゃってるわけ?!

「思いっきり口説いてます!」
「……そう」

色気もクソもない問いかけをしたのに、驚きも笑いも引きもせずにこにこと笑いながらそう言われた
意味がわからなくって、何がなんだかもうどーでもよくなってきたような気がした

「この山崎退、今ならお買い得ですよ〜」
「ぷっ」

おかしな言葉に思わず噴出してしまった

「山崎…さん?いいの?貴方自分で自分のこと商品扱いしてるけど」

くすくすと笑いながらそう言うと、一瞬きょとんとしてそして再び笑う
あら、何だかちょっと可愛らしい人だなぁなんて

「いいです。美人をゲットするんならこれくらいのことはしないと!で、どうです?俺」
「んー…」

わざとらしく焦らすと握る手の力が強まった
真っ直ぐと見つめられて、不覚にも心臓が跳ね上がった

「返事によっては、屯所までご同行お願いします」
「た、逮捕ってこと?」
「事情聴取という名の具体的自己紹介をして、それでも返事が良くなければ」

何て警察だ、と何だか笑いが込み上げてくる
…あれ?

「貴方は笑ってる方が素敵ですよ」
「…アリガト」

さっきまではしょげてたのにね、アタシ
何だろう…この人のおかげ、なのかしら?

とりあえず…

「返事は保留、アタシからも貴方のこと事情聴取してからじゃダメかしら?」
「いいですよ。じゃ、行きましょうか」

握られた手は解かずに下ろされて、そのまま手を引かれて歩き出す
雲間から覗く太陽が、雨で湿った辺りに光を与える
ふと、思いついたように彼が振り返った。

「あ、その前に名前だけ先に教えてください」

にっこり笑う顔は、元気を与えてくれる。

よ」
「…さん、か」


仕事失敗して怒られて、財布落として、傘パクられたけど
それでも素敵で変なお巡りさんに出会えたのは



不幸中の、…幸い?


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