「うっとおしいわホンマ」

何やねんこン雨は






相合傘  






「お、雨や」

そう言うたんは岸本やった


部活帰り、ぽつりと雫が落ちてきた
くだらんことをだべって歩いとった俺らはその足を止めて天を仰ぐ

「振り出してもーたなぁ」
「あかん、傘持ってないで」

つうか朝の予報で雨やなんて言ってなかっったわ、と言うと岸本はふっと笑おた

「アホやなぁ南」
「あ?」
「俺はしっかり傘もってんで!」
「…」

どーだと言わんばかりにカバンから何や紺色でオッサン臭い折りたたみ傘を取り出し自慢げに言う

「うちのオカンの“今日は雨降るで!”は絶対やからな」
「…ふん」

何やねんコイツ
オバチャンの勘当たっとって、そんで自分が傘持っとるから何や
あんま自慢にならんわアホ

こない雨、大したことないやんか
そう思いつつも、次第に大降りになってくる
岸本は乱暴に折りたたみ傘を開くと俺の方を見る

「しょーもない南のために、この実理くんが傘にいれたるで〜」
「…(ムッカつくわ)…いらんことせんでエエ」

「何強がっとねん、ほら、入りぃ」

少しだけ俺の方に傘を動かし入るよう促しとくる

「…」
「南ー、早よしぃ!俺観たいTVあんねん!」
「…あー、…岸本。お前先帰ってええわ」
「は!?」
「俺用事あんねん、ほなまた明日な」

くるっと方向転換をして、俺は歩き出した
パシャッと水が跳ねたが、さっさとその場から離れよ

少し離れた背後で、野太い岸本の声が何か叫んどった



「…本降りかいな」

あれから数分、早歩きで来たものの
視界が見えん程雨は強まってもうた

仕方なく、シャッターの閉じた店の軒下で雨宿りをする

「…やむんやろか、これ」

そんな風に思おて、ため息をつく
何してんやろな、俺


「びっしょ濡れやわ」

制服も、カバンも、全身頭から足までずぶ濡れや
オカンに文句言われるで、コレ

「せやけど、なぁ…岸本」

この歳なって、いくら幼馴染やからって、


男同士で同じ傘入るんは無理やって


結局はどっちも濡れるし、つーかキショイわ
そんなん見られたら、大分引かれるっちゅーねん

「あー…もーホンマ、帰れるンんかコレ」

キショイ男同士の相合傘から逃げて、アホみたいに濡れて
そんで帰れへんかったら、俺何したんやろか

「…はぁ〜…」

ため息をつきながら、その場にしゃがみ込む

すると、神様は俺に恵みをくれた


「あの、…よかったら入りますか?」
「あ?」

ヤンキー座りのまま、顔を起こすと
女が一人、心配そうな顔でこっちを見取った

「…」
「多分このままだと当分止まないと思うし…」

標準語やなービニール袋はコンビニのか?
どーでもええこと考えながらも、俺は膝に手ぇあてて立ち上がる

「アンタ、傘一本しかないやん」
「あ、ハイ…それでもよろしければ、どうぞ?」
「…」

さっきの岸本のように、傘を俺の方に傾ける女(の子)

せかけど、これ…相合傘やん
ええんやろか、入ってもーて…

正直、妙な抵抗感じる
かといって、このままでいるんもしょーもない

相手は、同い年かちょい下の女の子
声をかけてくれる程優しくて、おまけに何や結構可愛い顔しとる

…ええか、傘くらい

「ほな、入れてや」
「あ、どうぞ」

傘に入るんに、少し屈んだ俺を見て慌てて傘を高く持ち上げる
その傘を、俺は一瞬で奪い取った

「あ…」
「持つ」
「あ、りがとうございます…」
「おぅ」

近くで見たらホンマに可愛いでこン子
少しだけ、ガラにも無く緊張した


通りすがりのっちゅー子の傘に入ってから数分
道を説明しながらゆっくり歩いた
急いだって足元濡れるだけやからな
そこで生じる他愛ない会話にも結構楽しんどった

「南さん豊玉高校なんですね」
「おう。自分は?何や標準語やけど」
「私は大栄です。去年大阪に引っ越してきたんですよ」
「大栄…」

土屋のおる学校やないか
…知っとる、やろうな。そりゃ全国区のヤツやもんな

…アイツの話題はやめとこ。

「大栄か。そういや見たことある制服やな」

この辺じゃ、大栄通っとるヤツも少なくないからな
言われてみれば知っとる格好や
そう思ってちらりと見ると、ふと彼女の肩が傘からはみ出て濡れとんのに気づいた

俺も濡れとるけど、入れてもらっとる身やからな
入れてくれた側が濡れるんは、まずいやろ

「アンタ、ちゃんと傘に入りぃ」

「え…っ」

グッとその肩を引き寄せると、素っ頓狂な声が小さく漏れる
意外にもその肩が細っくて小っさいことに俺は驚いた

「でも、南さんも濡れてますから…!」
「アンタの傘やで。俺はもともと濡れとったからええて」
「…す、スミマセン」

さっきよりも近うなった距離で、彼女は俯いていた
髪の隙間から覗く耳が紅くなっとって、急に俺の顔も熱くなった

「…」
「…」

妙な沈黙が生まれた
余計なこと、したな…俺

とにかく恥ずかしくなって、早よ家着かんかと少しだけ歩くペースをあげた


「…ここやから」
「あ、ハイ…」
「その、あー…おおきに」
「イエ、そんな…」

南龍生堂の看板の前で、お互い下を向いたままで話す
さっきのせいで、気まずい雰囲気になてしもたなぁ…

「…」
「…」
「あ、あの…それじゃぁ私はこれで」
「おぅ、ホンマにおおきにな」

あっちゅー間に別れの挨拶
呆気なかったな、そうどこかで思おた

何でこない名残惜しいんやろなぁ

軽くお辞儀して、去ってくその後ろ姿をずっと眺める
さっきまで気づかんかったけど、縦縞の可愛え傘やな

湿気のせいか肩より少し長い髪の先が軽く跳ねとって、急に愛しく思おて胸が苦しくなった


「また会えるとええな、


声は決して届かず、何でそないなこと言うたんかも知らんまま
雨音にかき消されていく

それは、きっと


雨の日の一目惚れ


こんな雨の日やったら、悪くないかもな。



MENU<  >2