不安なこと程、起こるのは早いもの

あっという間にその朝は訪れてしまう






Unfinished Heart






“折角の休暇だから、楽しくのんびり過ごそう”

そんな風に思っていたのは、昨日の夜まで
リリーの話を聞くまでのことだった

「…」

「…」

「…」

談話室にはを入れて3人しかいない
彼女とピーターと、シリウスだけ
ほとんどの生徒が家に帰ってしまったのだ
残ったのは彼等を含む10人弱、同じ学年では3人だけだった

「…」

「…」

「…」

微妙な沈黙が続く
ただ暖炉の中で薪が燃える音だけがいつも以上に大きな音に聞こえた

それぞれ微妙に間を空けてはいるが皆暖炉の周りのソファーにいる
は一人掛けに腰掛け、ひたすら暖炉の炎を見つめる
一見それに集中しているようにもとれる彼女の様子だが、実際は誰よりもこの場に居心地の悪さを感じていたのだ。
視線は暖炉でも、神経は周囲の空気に向いていた


「あ、…あのさ!」

重い空気に耐え切れず最初に声をあげたのはピーターだった
はゆっくりと振り向き、シリウスは少しだけ視線を動かした

珍しく思い切った行動に出たピーターはとても焦っていた
何を言うか、何もも考えていなかったのだ
ただ空気に耐え切れなくて、切り出してしまった

あわてふためくピーターに、がそっと声をかける

「どうしたの?」

「あ、うん…せ、折角の休日なんだし…なんかこう、もっと…その …」

もじもじと身体を動かし、顔を真っ赤にして言う彼の言葉は次第に尻すぼみになっていく
は困ったような顔をして、ちらっとシリウスを見たが、彼は興味なさそうな顔をして大きな欠伸をした

「…何か、やろっか」

が苦笑混じりにそう言うと、ピーターは「それが言いたかったんだ…」と蚊の鳴くような声で言った

「何する?トランプでもやる?それともチェスとか」

「う、うん…」

ピーターは横目でシリウスを見た
恐らく彼のの反応を気にしているのだろう
しかしシリウスは全くピーターにもにも、目もくれない

「…ち、チェスやらない…?」

控えめにピーターが言ったので、は少しだけ微笑んでいいよ、と返した
内心、彼女もシリウスが気になってはいたが声をかける勇気も理由も見当たらなかった

近くにある丸テーブルを暖炉の近くまで移動させ、その上にチェス盤を置く
駒を並べる間も、2人はシリウスを気にしていた。
彼は何も反応しなかった。ただ静かに瞳を閉じて休息の時を過ごしているようだった


黒白のチェス盤の上には
端からルーク、ナイト、ビショップ、そしてそれに挟まれる様にクイーンとキング
その前列にはポーンが綺麗に列を作っている

白は、黒はピーター

向かい合わせになったピーターを目の前に、は少しだけわくわくしていた
ゲームを始めた途端、2人はシリウスのことなの頭から離れてしまっていた



「…」

長椅子に横になり、手は頭の後ろで、脚は高々と組んで少し眠りにふけっていたシリウスは
パチッと目を開ける
視界に入るのは、談話室の天井
耳に聞こえるのは、ピーターとの楽しそうな声だった

思わずシリウスは眉間にしわを寄せる
そしてゆっくりと上半身を起こした
むっとした表情でチェスをしている2人を見るが、彼等はシリウスが起きたことに気づかない

のっそりと立ち上がって彼は自室へと続く階段に向かった
突然視界にシリウスの姿が入ったピーターは裏返った声で彼に話しかける

「し、シリウス…起きたんだ…」

「ああ」

素っ気無い声が返ってきて、ピーターは慌てふためく
も困ったような顔をして、遠慮がちに声をかける

「あの、よかったら一緒にチェスやらない…?」

そう話しかけると、シリウスは足を止めた
そして彼女のほうを見る
振り向いた彼の顔は少しだけ驚いているようだ
一瞬目が合った2人だが、すぐにそれは逸らされてしまう

「あー…いや眠いから、…部屋で寝る…」

「…そっか」

微妙なやりとりが交わされて、ピーターはぎこちない態度の2人を交互に見た
助け舟を出そうにも、自分にそんなものが出せるかもわからない
結局2人を見ていることしかできなかった

居心地の悪くなったシリウスは、そのまま階段を上って行ってしまった
は少しだけ、けれど心の底から残念だな、と思った…


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