「わぁ…真っ白!!」

眩い光を放つ白
まるで夢を見ているような幻想的な景色に心が弾む

綺麗な白銀の絨毯には、まだ誰の足跡も無いことに気が付いた

「…一番乗りで行ってみようかな…」

思い立ったら即行動、と
瞬時に着替えを済ませ、きちんと厚着をして彼女は自室を飛び出した






Unfinished Heart






「寒ーい…」

歓喜の声は白い息となり空気と交じり合った
視界のほぼすべてが銀世界という美しさ
は寒いと言いながらも興奮気味に一歩踏み出す

ざくっ…

雪の厚みを足で感じ、思わず頬が緩んでしまう
それから少しずつ前へと踏み出していく

10歩くらいは歩いただろうか、というところで後ろを振り返ってみると
自分の足跡だけが道を作っていた

何だか嬉しくなったきょろきょろと辺りを見回す
そして誰も居ないことを確認して、一気に後ろへと倒れこむ

耳のすぐ近くで雪が沈む音が響いた
全身に、とくに頭にその冷たさを感じる

「っ…めた、い〜…」

キーンと頭が痛くなる感覚すら楽しく感じ、彼女は小さく笑う
そしてそのまま静かに空を見上げた


灰色の空


ただそれ一色の空を、何度つまらないものだと思ったことだろう
でも今は、今日は、何となくだったが好きになれた気がした


「気持ちいーなぁ…」

ゆっくりと息を吐きながら言い、同時に静かに瞼を閉じる
自然と一体化するように





「…ぃ、おい!」


急に耳に届いた声に、はビクッと身体を震わせて目を開いた
真っ白な周囲に反射した光が急に視界に飛び込んできて、一瞬だが目が眩み目を細めた

(誰…?)

黒髪に端正な顔立ち、
髪と同じ真っ黒な瞳が段々と視力を回復してきたの瞳と合う


「!しッ、シリウス!?」


驚いた彼女は慌てて上半身を起こすがこの状況を理解は出来ていないようだ

の脇に膝に手をついて彼女を見下ろしていたシリウスは、あぁ生きてたか、と苦笑する
そしてそっと手を伸ばし、彼女の頭に優しく触れた

「お前、雪だらけだぞ」

そう言いながら軽く雪をはらってくれる彼に、は少しだけ頬を染めた
そして片腕を上げ、前髪の雪を自ら払う


「どうして、シリウスがここに…?」

立ち上がる際、手を差し伸べられ一瞬戸惑っただったが、素直にその手を借りて立ち上がった
そして全身の雪を払いながら、彼に尋ねる

「起きて窓の外見たら、雪の上に人が倒れてたから驚いて見に来たんだよ」

呆れたような口調で言う彼に、は再び赤くなった
まさか見られていたとは知らず、急に恥ずかしさが込み上げてくる
そもそも彼とまともに話したことが無いことに気がつき、必死に話題を考える
しかしそれは真正面で空を見上げ眺めているシリウスも同じだった

「…」

「…」


この2人が顔を合わせると必ず現れる妙な沈黙
は必死に話題を探していた
けれどその必要は無くなる

「…お前、雪好き?」

「…え?」

なんと、シリウスの方から会話を持ちかけてきたのだ
は目を見開いて顔をあげた
いつもあまり表情を見せない彼が今日は違う
どこか照れたような、緊張しているような表情をしていた

「あ、うん。雪好き…かな」

驚き以上に喜びが押し寄せてくる
自然と、笑顔になる

「シリウスは、雪好き?」

「あー…雪は、嫌いじゃないけど、寒いのは苦手だな」

「私もそうだなぁ」

「こう寒いと朝起きるのもつらいな」

「あ、前にジェームズが言ってたよ『シリウスを起こすのは大変だ。まだフィルチから逃げる方が楽でいい』って」

「あいつ…」

シリウスは眉間にしわを寄せて低い声で「余計なお世話だ」と呟いた
はそんな彼の様子が何だか可愛らしく感じてしまい、くすくすと笑ってしまう

「シリウス、寝起き最悪だもんね」

「仕方ないだろ…」

苦手なんだから、と口を尖らせて言う彼が幼く感じられて益々笑みが零れる
そして、ふとあることに気が付いた


…あれ?普通に、話出来てるよね…?


昨日まではぎこちない間柄だった2人が
今はこうやって2人きりでも会話をしていて、自分は自然と笑っている


何よりも、彼が普通に表情豊かであった


「…?どうした?」

ぽかんとした表情で自分を見ているに、シリウスは首を傾げる
そして苦笑を浮かべながら「アホッ面になってるぞ」と笑った
つられて彼女も笑う


これはクリスマスの奇跡かな…?


そんな風に思いながら

今日という日を幸せに感じた
だから彼女は彼にこの喜ぶを言葉で伝える


「シリウス、メリークリスマス」

「…あぁ、メリークリスマス」


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